2015.7.27鳳凰三山
  山歩紀行 2016

 人と交わり、草木と交わり、山気と交わり
それら一瞬の表情を写真で切り取る楽しみも広がって
単独行もいいし、仲間とならなおいい
そんな山歩きの楽しみを今年も綴ります
 
2015.9.21栂海新道へ
 
   2016年10月30日 戸隠山 スリル満点痛快誕生日登山
八方睨 1900m  戸隠山 1904m  九頭龍山1882.7m  長野市     

12:05 ここまで、いくつクサリ場を越えてきただろう。ここを登れば、いよいよ蟻ノ塔渡りが待っている。

12:42 すくんだままの足で、何とか越えてきた蟻ノ塔渡りを振り返ると、若者2人、立って歩いて渡って行った。

14:37 戸隠山の山頂を越えて進む。気の抜けない断崖絶壁の連続、眼下は飯縄山と麓の樹海。

戸隠キャンプ場駐車場8:30-9:06大鳥居-9:24随神門-9:41奥社10:00-10:44
五十間長屋(ヘルメ、ハーネス装着)11:00-11:08百間長屋-12:07蟻ノ塔渡り
12:42-12:53八方睨14:13-14:26戸隠山頂14:35-15:24九頭龍山15:33-16:33
一不動避難小屋16:41-18:03牧柵(牧場域)-18:33駐車場

 YouTubeは、→こちら から

最初から意図していたわけではないのだが、前週の予定が村行事と重なって1週間後になり、結果的に誕生日の日の登山となった。
その記念すべき登山が戸隠山となったのも、当初計画の金峰・瑞牆の予報が芳しくなく、一泊山行を止めて、好天予報の山へ日帰り山行に変更した結果だから、すべては、偶然と言うことになる。

偶然にしては、うまく行き過ぎた。

戸隠、妙義、劔、大キレットと、岩稜渡りの山を以前から希望してきたのだが、どれも実現していなかった。
リーダーのUnqさんが、我らの技量を推し量ってのことだ。
もっとも、劔は大丈夫だろうということで、ここ2年ほど計画には挙げられていたのだが、天候がうまくなくてすべてお流れとなっていた。

そんな状況で、この日のリーダー、戸隠と谷を挟んだ飯縄を両睨みで麓までやってきた。
まずは、戸隠へ試しの駒を進め、途中のクサリ場のどこかか、あるいは、うまくいけば蟻ノ塔渡りの手前ぐらいまでは登って、そこまでの我らの状況を見て、引き返すなら飯縄にしようと胸算用していたらしい。

ところが、豈図らんや、Youmyさんも小生も、黙々とどこまでも、リーダーの後ろに従って行く。
垂直のクサリ場が出てこようが、カニの横ばいがあろうが、なんのその。
ついに、蟻ノ塔渡りまで来てしまった。

ここでリーダー、岩稜の下辺を回り込む巻道を行くように我らに言う。
しかし、どう見ても、その道がより安全だとは思えない。
岩稜の上辺を渡ろうが、下辺の道へクサリを伝って下り上りしようが、手を滑らせれば結果は同じ。
奈落の底が待っているだけ。
ならば堂々と、ここは上辺の道を進もうではないか。
Youmyさんも小生も、そう決意した。

細い岩稜のナイフリッジに一歩足を踏み出したものの、とても直立はできない。
まずは、上辺に手をかけ、岩壁の突起を足場にして横に伝い歩き。
足場が捉えられなくなって、伝い歩きが難しくなると、岩稜の上を四つん這い歩き。これが意外と難しい。後ろ足を前に運ぶ際、岩のゴツゴツに靴が引っかかってバランスを崩しそうになる。
そこで、後半は、細い岩稜に馬乗りに跨った。これは中々塩梅がよろしい。転落する心配がないから、安心感が違う。
ナイフリッジは、この姿勢で渡るのがいいと聞いたことがあるが、なるほどと思った。

細い岩稜の上辺だが、最後の2mくらいはやや広くなる。
そこで立ち上がってみた。
恐る恐る、一歩一歩歩いた。
そこはもう、稜の両側がテラス状になっていて、危険度は相当低くなっているのだが、それでも怖かった。

横に伝い歩きをしたり、四つん這い歩きをしたりしている間中、崖の下は見ないように心掛けた。
が、どうしても見てしまう。
垂直の岩壁が眼下ずっと下方まで切れ落ちている。

落ちたらどうなるとは、絶対に考えないようにした。
ただ只管、大丈夫、大丈夫、へいちゃら、へいちゃら、渡れないはずがないと、自己暗示をかけ続けた。

何とか渡り終わって安全地帯に立ったとき、心底、怖かったと思った。

一息入れていると、入れ違いに、蟻ノ塔を渡って下山していく人が何人もいる。
聞けば、一不動コースを周回すると時間がかかるので、蟻ノ塔コースを往復するのだそうだ。
もう一度あそこを渡るのは、今日は、クワバラ、クワバラ。

クサリを伝って八方睨の頂に上った。空は晴れ渡り、その眺望の凄いこと。360度の大展望。
足のすぐ下には、さっきの蟻ノ塔渡りの岩稜。
あそこを渡ったと思うと、俄に快感が湧いてきた。
あれだけ怖かった思いはどこへやら、湧いてくるのは痛快さだけ。

FaceBookに誕生日の祝辞が載っていたので、お礼に、頂からの写真を投稿した。

そうこうしている間、Youmyさんは、焼き肉を始めていた。
それは、それは、美味かった。
結構な量で、結局、昼食は焼き肉だけで間に合ったほど。

おまけに、食後のデザートは、菅井農園産のブドウ。
肉と一緒に担いできてくれたという、このブドウがまた、格別に美味しいのだ。

菅井農園は村上市の猿沢にあって、ブドウ狩り開園当初、一面鈴生りになったブドウの房ときたら、それはそれは、うっとりと見とれるほどの見事さだった。
それが、ひと月ほどして再度行ってみると、これまた見事に売れ切れている。それほどに人気のブドウなのだから、美味しいのなんのって。

お礼に、小生、豆を挽いてコーヒーを点て、少々ながら進呈。

そうこうして、八方睨の頂で、たっぷりと時間を過ごしたものだから、それでなくても日の短い晩秋のこと、戸隠の山頂を越え、九頭竜山を越えて、一不動ルートを辿る頃には、たっぷりと日が暮れた。

もちろん、準備万端怠りなし。
ヘッドランプの灯りを頼りに、薄暗闇のクサリ場を降り、漆黒の林間の道を辿って、悠々下山となった。
実は、前月、Unqさんは単独でこのコースを下見していたのだ。
だから、日没となっても、何の不安もなく道を辿ることができた。

もっとも、こんなに早く戸隠へ来ることになるとは思ってもいなかったようで、リーダーにとっても、想定外の山行だったようではある。
想定外と言えば、最も想定外だったのは、蟻ノ塔渡りを終えてのYoumyさんの一言。
小生が、怖かったと漏らしたら、当のYoumyさん曰く、あら、私、ちっとも怖くなかったわ。
下見時のUnqさんの話やら、ネットでの画像やらから、もっと怖い所と思っていたが、実際はそれほどでもなかったと、おっしゃる。
イヤ、タマゲタ。
もっとも、タマゲタのは、私よりUnqさんの方。
Youmyさんは、絶対に引き返すと言うに違いないと踏んでいたらしい。
だから、飯縄山の山頂なら、焼き肉もよかろうと思っていたと言う。
それが、どうだ!
戸隠の蟻ノ塔を渡れたのなら、あとはもう、劔はもちろん、大キレットも、妙義も大丈夫だと、合格点を出した。

下山した夜、布団の中で、戸隠の岩稜の渡りを何回か夢に見た。
いや、夢というのとはちと違う。
夢現に、ふと手を掛けている岩稜が浮かぶのだ。
そして、その都度、身体がビクッと動く。
確か子どもの頃、山スキーなどで遊んだ日の夜に、同じことが起きたような記憶がある。

だんだん子どもに返っている。
還暦から10年。
10歳の童に戻ったのだとしたら、これからまだ60年の人生がある。
だがしかし、肉体は、どっこいそうはいかない。
青森で不老不死の湯に一度浸かったくらいでは、どうしてどうして。
日々の走り込みと、年々の肉体の衰えと、どっちがプラスマイナスになるかだ。いや、プラスなどありえない。マイナスの幅を少なくするのが関の山だろう。
それが、宇宙の真理なのだから、抗ったところで、嘆いたところで、どうにもならない。

ところで、2日たって、怖さより痛快さが増幅しだした頃、ふと可笑しさが湧いてきた。
あの恐怖のナイフリッジを渡るYoumyさんのザックに、実は、生肉がどっさりと詰まっていたのだ。
あのナイフリッジを渡って、わざわざ焼き肉しに行こうと考える登山人は、まずおるまい。
それを思うと、妙に頼もしくて、妙に愉快で、笑いたくなった。

ドームでUnqさんに会って、そのことを話したら、Unqさんも妙に愉快になったらしい。
自身のブログに、Youmyさんを剛の者と褒め称えていた。
滅多にないことが起きた。

これも戸隠の神の賜物かもしれない。
あるいはまた、すべては偶然の賜物なのかもしれない。

そもそも、偶然にこそ神の意志がある。中世人はそう信じていた。


Unqさんのブログは、→こちら

9:53 奥社から見上げた戸隠山の鋭い岩稜。予報通りガスが晴れていく。

11:29 垂直に近い岩壁を何とか登り上がって振り返ると、次の人が。

11:50 これでもか、これでもかと、厳しいクサリ場が続く。

12:07 いよいよ蟻ノ塔渡り。渡ってくる人の様子を眺め、覚悟を決めた。

12:40 這う様にして渡って来た蟻ノ塔を立って歩いていく若人。オチルナ‼

12:53 八方睨に上ってから蟻ノ塔渡りの再現。画面右下が本当の蟻ノ塔。

12:54 八方睨の頂は360度の大展望。まず北に、樹氷の先に高妻山。

南西、西岳の左遠方に穂高連峰。槍ヶ岳の姿も捉えた。

樹氷の西岳、その右遠方に白馬岳、そのすぐ右は小蓮華山。

北東方向、飯縄山と黒姫山の間、信濃町方面。野尻湖が写っていたような。

蟻ノ塔のナイフリッジを渡る人、あそこを往復するとは、イヤハヤ。

14:26 戸隠山々頂、真後ろに妙高山、左に高妻山、右端が黒姫山

15:26 九頭龍山、菅井農園(村上市猿沢)産の特級品ブドウで小休止

16:41 一不動から、夕日に燃える五地蔵山と白肌のダケカンバ。

17:15 最後のクサリ場。ヘッドランプを頼りに薄暗闇を慎重に降りる。
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