綿野舞(watanobu)山歩紀行2017
 
 3月11日 息荒く 道なき峰の 雪を漕ぐ
高知山1024.0m 無名峰1070m 新潟県新発田市  地理院地図は→こちら
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二王子岳山頂に続く高知山の尾根は、登山道がなく、知る人ぞ知る積雪期限定の周回コースです。歩きやすくなる春雪が固まった頃を見計らって行ってみたのですが、あいにく、前日まで3日間降雪で新雪厚く、ラッセルで大難渋。そのために思いのほか時間がかかり、やむを得ず周回は諦め、次のチャンスの下見にしてピストン下山となったのでした。しかし、降雪のお陰で、時ならぬ真冬の様相の雪山歩きを大満喫。時には膝上まで潜る深雪ラッセルの難儀も、それはそれで、雪山の醍醐味でした。
渡辺伸栄watanobu 
標高600m付近、尾根に上がるとブナの霧氷林になった。梢に張り付いた細かいエビのシッポが幻想的な味わいを出している。

この尾根に上がるための登付き口まで、沢伝いに雪の林道を2時間歩く。これが唯一冬山の辛いところで、我慢のしどころ。
林道には先行者があって、その人のトレースを辿れば尾根登りも楽ができると、虫の良いことを考えていたら、遥か先方から、その先行者が林道を引き返してくる。登付き口を通り越したようだと言う。GPSで確かめると、ちょうど自分たちの今いる地点が登付き口だった。
実は、もう一人先行者があったのだが、それは渓流釣りの人で、もっと先の沢に降りたらしい。
そんな次第で、その御仁と合流。旅は道連れ世は情け、結果として3人で交代ラッセルすることになった。
標高700mを越えれば、春山は様相一変、新雪深い冬の山に豹変した。雪をこざいて一歩一歩進むしかない。

ラッセルは、先頭と2番目以下では、その難儀さに天と地の違いがある。こればかりは、実際に体験してみないと分からない。雪の深さが足首ぐらいならまだしも、膝くらいまでになると、その高さまで片足を抜き上げて踏み出すことになる。寒気の中でも身体はじっとりと汗ばむ。15分で交代。
斜面の傾斜が強くなると、腿の深さの雪となる。そうなると、もう足を抜き上げることはできないから、片足を雪の中に蹴り込むように差し入れて進む。まさにラッセルそのもの。
雪との格闘といった風情だが、それがまた難儀ではあるが苦痛ではないから、マラソンに通じるものがある。
高知山は、二王子岳に続く長い稜線上にいくつもあるピークの一つだ。三角点が据えてあって名前がついているが、雪のこの季節、どこが高知山の山頂かは、区別がつかない。通り過ぎようとして、GPSを見たら、そこが高知山山頂の真上だった。すぐ隣に、ここよりやや高いピークがあるし、その先も登りになって稜線が続き、ピークが連なっている。
だから、高知山そのものは登頂したというような感覚をもたらす山ではない。あくまでも、二王子に続く稜線の中の一つのピークに過ぎないようだ。
タカチかコウチかと、合流した御仁に尋ねたらコウチ山だとのこと。コウチは河内に同じ。山中の河川流域に開けた小平地のことで、上高地も同じ意味とされる。
歩いてきた林道に沿って流れる沢は高知川。とすると、その川の名はコウチといわれる地形からきているのだろう。高知川の上流だから高知山となった、というところか。
もしそうだとしても、その辺りにピークはいくつも並んでいるのだから、地元の人が必ずしも、いま自分たちが立っているピークを指して高知山と呼んでいたということにはなるまい。たまたま測量の都合でこのピークに三角点を据え、地図上に山名を付けたということだろう。
どうも、山の名称というのはご都合主義というか、大雑把というか、そんなことが多いような気がする。皆で指す点が一致すればいいだけなのだから余計な斟酌は不要、その方がむしろ合理的なのかもしれない。
事前に春山残雪期の記録などを見ると、林道を2時間、さらに尾根への登付きから高知山までもう2時間となっていた。林道は予定通りだったが、登付きから高知山まで予定を1時間オーバーしてしまった。固い残雪と深雪ラッセルとでは、進度が全く違う。
当初の計画では、この先の稜線を辿って二王子岳を周回したいと思っていた。が、3日前からのあの降雪。山は新雪が積もっただろうから、行ってみて無理だったら高知山までにすることにしていた。
ここまでで1時間オーバーで、この先も深雪ラッセルになるに違いない。二王子は諦めることにしたものの、せめて、せっかく上がった稜線をもう少し歩いてみることにした。
いつの時期でも、稜線歩きほど気分爽快なことはない。それが、無垢の新雪ともなればなおのこと。先方にピラミッドのように尖った雪庇のピークがせり上がっていた。あの先端までは登ってみようと、雪の稜線を先に進む。
この急坂の先にはどんな光景が待っているのか。心臓のバクバク感に心のワクワク感が相乗して息荒く沸き立ってくる時間。登山人(びと)の最も辛く最も高揚する場面。
 綿野舞流山歩徘徊句を一句  「息荒く 道なき峰の 雪を漕ぐ」
ピラミッドの尖がった先端に立った。地図に名称はなく、GPSで1075mと出た。帰宅後地理院地図で調べると1070~72mくらいのようだ。鳥居峠までは水平距離でもう600mくらい、小ピークをあと2つくらい越すことになる。地理院地図には高知川の沢沿いに鳥居峠直下まで登山道が引いてある。今朝歩いた林道の延長だが、今使える道かどうかは不明だ。かつては、南俣集落などの二王子山麓と内の倉川流域の人々を結ぶ峠道だったのだろう。古を偲んで、その峠までと思ったのだが、また次に来る機会が必ずあるだろうと、この無名峰で引き返すことにした。この日、二王子山頂を含め、そこに続く稜線のガスが晴れることはなかった。
高知山に戻って、山頂直下の風除け地にテントを張り、3人そこに潜り込んで暫し休憩。寒風強く吹く稜線で冷えた体を温かい食べ物と飲み物で癒した。その場所から、さっきまでいた無名峰の白いピラミッドが、なんとも麗しく見えたものだ。
高知山からの稜線は、単純な一本尾根ではなく少々複雑な形をしている。幅広い凹凸のある平原のような峰が広がっているのだ。この稜線、ガスると道迷いしやすいと、事前に調べたブログなどに書いてあったが、さもありなんと思われた。積雪ではっきりとはしないのだが、どうやら二重山稜ではないだろうか。
二重山稜の形成原因はいくつかあるらしいが、要は、山全体が稜線に沿って裂けてずれ落ちかけている地形だ。山は不動の代名詞ではないということだ。
いざ下山となったら、合流した御仁の速いこと速いこと。テントの中の会話から私の年齢を判じたらしく、後を追う私に振り向きざま、実は自分も同年の生まれだなどと、足も止めずにおっしゃる。
ムム、この歳で、雪山単独行とは⁉ なかなかやるの、お主も。人のふり見て「わが身を正せ」と言うが、ここでは「わが身を悟れ」かな?
午後からは下界は晴れてきて、角田・弥彦の山や日本海も見えるようになった。樹氷の天上界から雪解けの下界へ、いつも後ろ髪引かれる時間帯だ。
 
私ら三人と、その後に犬連れの一人が二王子まで行くと言って通ったから、白無垢の稜線にこんな素敵なスーパーラインができていた。明日は日曜で晴天予報。多分この道は踏みしめられてスーパースカイラインになるだろう。
水を飲む者は井戸を掘った人を忘れるな。雪道を行く者は雪踏みした人を忘れるな。
それにしても、彼の犬の人、無名峰から先はトレースなしで難儀しているだろう。今日中に二王子から下るのは無理、多分避難小屋泊まりか。
前を走り下る御仁といい、犬の彼の人といい、本当に山が好きな人なのだと改めて感じ入った。
  なべての頂きに憩いあり
    ゆえに 束の間の憩いを求めて山に入(い)る人絶えず
振り返れば、高知山も無名峰も遥か上方のあの微かな山のその向こう側だという。尾根を登り峰を伝い蛇行して雪を漕ぎ、あの遥かな峰までよくぞ歩いたものだと、いつものことながら、我ながらの感慨に浸る自己陶酔の時間帯。人間の足とはすごいもんだ、山はいいもんだと、それしか言いようがない気分。
<コースとタイム>P南俣林道除雪終点発6:20-8:30尾根登付き-9:15谷頭分岐点-11:45高知山山頂-12:10無名峰1070m12:25-12:47高知山(山頂下にテント)14:20-15:10谷頭分岐点-15:27林道合流-17:00駐車場着
YouTube「冬限定の道なき山・高知山」は→こちら
 
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