綿野舞(watanobu)山歩紀行2017
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8月4・5・6日 感動の 劔・立山 三日旅 
第3日目 天空の 雲湧く稜線 駈けてみる<立山縦走>
立山(大汝山)3015m 富山県立山町  地理院地図は→こちら
 
テント生活というのは、どこか面白い。ザックの荷を殆ど出して身の回りに置くのだが、ごっちゃになって何がどこにあるかまるで分らない。それなのに、手の届く範囲を探れば、必ず必要な物が出てくる。家でもこんなだと便利だろうねぇなどと笑い合う。
そんなテント生活の2晩目、雨がテントに当たる音で目が覚めた。パラパラとまだ小雨の音だった。ウトウトと聞くでもなしに聞いていると、やがて本降りの音に変わった。かなりの強雨だ。予報では、それほど長くは続かないはず、それが当たることを願いながらまたウツラウツラ。
2時起床。雨は上がってくれていた。昨日の朝同様、2時間で朝の仕事を済ませた後、テント撤収。濡れたテントは少々重くなるが、カッパを着ないで済んだことを思えば、上々だ。
第1日目(劔沢へ)は→こちら  第2日目(劔岳)は→こちら
渡辺伸栄watanobu 
4:10 重荷を肩に、未明の出発。まだ薄暗い中、一服劔から前劔にかけて、稜線に灯の列が見えた。早い人はもう前劔の頂に達しようかという辺り。
5:33 別山山頂間近の稜線に上がった。劔沢の谷を挟んで劔岳。朝の劔はとりわけ荘厳に構えていた。一見、人を寄せ付けもしない険しい岩の大殿堂という感じに見える。が、どうしてどうして、今も大勢の人があの岩の峰や壁に取付いている。来る人を拒まず、誰でも包み込んでくれる大らかさがあの山にはあった。遥か目の下に2晩お世話になったテント場が見える。あそこからここまで標高差293m。すぐ足下に見える雪渓の上端から急傾斜の尾根筋を辿ってここまで直登してきた。
後ろ(南)を見れば、立山の三峰。手前から富士ノ折立、大汝山、雄山。ここから別山の山頂を経由して長い稜線を歩き、あの三峰へ上がるのが今日のコース。谷を挟んで竜王岳と浄土山。別山と三峰のある立山と浄土山をまとめて、立山三山と呼ぶとのこと。ほかに、立山の三峰を指して立山三山と呼ぶこともあるという。紛らわしいので、ここでは立山の三峰と言うことにする。浄土山の右方遠くに薬師岳。とすると、竜王岳と雄山の間に見える遠い山は三俣蓮華岳か。雄山の真後ろに槍ヶ岳があって、あの遠い山は裏銀座の峰。まだ見ぬ峰、行ってみたい峰。念ずれば通じるか。
6:03 別山山頂。目の前に劔岳、あの岩の峰、岩の壁に登った昨日を思って、皆無言。同行の仲間が、ここで待っているから北峰まで行ってきた方がいいと、初めて来た私に勧めてくれた。直ちに重荷をその場に置き捨て、北峰へ走った。天空の雲湧く稜線駆けてみる。重荷からの解放感もあって、実にいい気分だった。
北峰に着いて、別山の山頂を振り返った。あそこからここまで距離約330m。ほぼ平らだが、中間がややたわんで低くなっている。来るときも戻りも、たわんだ方への下りは快調に走れたが、ちょっとでも登りになるともう息が上がってしまった。それもそのはず、ここはほぼ一万尺の天空、酸素は薄い。
北峰の先端に立って、劔岳と対面した。改めて凄い山だと心底思った。正面の長い雪渓、平蔵谷を下って行った人たちの凄さも改めて思った。これだけの山に、自分も含めてあれだけの数の人々が事故もなく登れるようにしたということ、それもすごいことだと思う。新田次郎の「点の記」を思えば、これほどに登山道を整備した人々に感謝の念が湧く。登山人たる者必ずや劔と槍を目指す。
 
北峰から振り返ると、右前方に、これから向かう立山の三峰。左の雲に浮かぶのは針ノ木岳と左方奥は蓮華岳か。立山と針ノ木岳の間の遠い山並は餓鬼岳、唐沢岳、燕岳、大天井岳らしい。帰宅して後日カシミールのカシバードで調べて分かった。登っていない山は、なかなか見ただけでは分からない。自分のものにはなっていないということだ。
6:31 別山の山頂を下った稜線の鞍部。峰を越える雲が、滝雲となって緩やかに流れ下る。左上がこれから目指す真砂岳。ザックにつけた背中で揺れるヘルメットは、昨日劔に登った印。単なる立山縦走人ではないことの自己主張。
7:20 真砂岳を越えて、これから登る富士ノ折立を見上げる登山人。大汝も雄山も入っている。気に入った一枚が撮れた。登山中の写真は狙ってもそうは撮れない。偶然の一期一会で、たまにお気に入りが撮れる。それがまた楽しみでもあって、重い一眼レフを首から下げている。
この先、鞍部に少し下り、それから登る岩尾根が、本日最後の登り道。
稜線の岩場に咲くイワギキョウ。最後の登りの前に、この花でほっと一息。本日の花のお気に入りはこの一枚。稜線を渡るそよ風に雲と一緒にわずかに揺れる草や花の風情が出ていると思うのだが、どうだろう。
8:07 富士ノ折立。賑やかな一団がいた。見れば、同郷の人々。下界で日常に会えば、やあどうもで済む仲も、一万尺の天空での奇遇となればそうはいかない。何か特別な糸で結ばれていたかのような口ぶりで挨拶を交わす。去年も、我らが仙丈にいたとき彼らは対岸の、我らが前日登った甲斐駒にいたのだから、これで邂逅は2年連続。来年もとなれば、これは最早特別な糸がないとは言い切れなくなるのでは?。中に、羨ましくも中学生の孫と一緒の友人。後日聞けば、劔には9年前に登ったとのこと。経験豊富、だから孫も山好き人になったのかと、納得。
富士ノ折立の頂上は、あの岩峰の尖端。どういうわけか、あの岩峰には上がらずに先へ進む登山人が多い。同郷の一団も、先を急ぐふうに行ってしまった。せっかく来たのにあそこに上がらずにはいられないということで、岩に登りついた。尖端の標高は、期せずして劔と同じ2999m。我らが登るのを見て、後から来た登山人も次々と登り始めた。我らが登った頃には誰も登っていなかったから、もしかすると、この岩峰に上がれることを知らずに通過したのかもしれない。もったいないことだが。
富士ノ折立の岩峰の尖端から、歩いてきた稜線の道。その先には、劔。我らの縦走をいつまでもいつまでも見送ってくれていたことになる。同じ高さの頂の上から、最後の挨拶。ありがとう劔。
劔と雲を挟んで別山。右にたわんだ稜線の先が北峰。ちょっとだけだけど、天空のランニングロード。
9:03 大汝山の頂。この峰も頂上は尖がった岩峰の先端。ここは立山の最高所3015m。だから、やっぱり万歳をしたくなった。右後ろの岩峰がさっき立った富士ノ折立。そのずっと奥、劔はすでに雲の中に入った。ランニングロードだけが辛うじて見えている。
立山といえば雷鳥。雄山への途中で姿を見せてくれた。7年前も室堂平で見た。他の山ではまだお目にかかったことがない。この雷鳥くん、なんと、飛ぶ姿まで見せてくれた。数日前のテレビでは、飛べないと言われていた雷鳥が実際は数十キロも飛べると分かったのはつい最近のことだと、研究者が述べていた。立山の雷鳥くんは、なかなかサービス満点なのであった。 
9:36 雄山の頂の神社。立山信仰の中心地。ここまでの幸運を感謝せずにはいられない。参拝料を払って登頂、お祓い祈祷お神酒と懇ろに御礼の気持ちを示してきた。山で、天候に恵まれることほどありがたいことはない。しかも3日間も。この日は、室堂のターミナルについたとたんに雨が来た。しかも本降りになった。雨に当たった登山人には申し訳ないのだが、返す返すも幸運に感謝だ。
そして、何よりも山の仲間に感謝だ。余分に共同荷や食料を背負ってくれたり、高低差をものともせずに山小屋までビールやコーラを買いに往復してくれたり、先行してテント場の手続きをしてくれたり、笑いを作って場を和ませたり、ときには厳しく注意を飛ばしたりと、上げたらきりがないのだが、行程設定はじめ何から何までお世話になっている。私のような高齢者が、なんとか難易度の高い山に登れるのもそんな仲間がいればこそのこと。振り返って、では、自分は仲間のために何ができているのか、せめて足手まといにならないようにすることぐらいか。恥じ入るばかりだが、好意に甘えて、これからも皆さんよろしくお願いします。
 
<コースとタイム>  劔沢テント場発4:12-4:39分岐4:46-5:28別山稜線出合5:50-6:03別山山頂-6:08別山北峰-6:16別山山頂-7:10真砂岳-8:08富士ノ折立8:40-8:57大汝山9:09-9:33雄山9:54-10:33一ノ越10:51-11:31立山室堂11:36-11:46室堂ターミナル着
 ここで紹介しきれなかった立山縦走の様子を
YouTubeにUPしてあります→こちら
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