綿野舞(watanobu)山歩紀行2018
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7月26日 行商の 通った道か 河内古道
峠(無名)160m 新潟県関川村  地理院地図は→こちら 
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歴史館の田村さんから面白い資料をいただいた。近畿大学民俗学研究所発行「民俗文化」第12号掲載、胡桃沢勘司氏の調査報告。関川村へ生魚を売りに来ていた行商人についての聞き取り。私にしてみれば、ついこの間までのごく当たり前の風景なのだが、気が付けば、「浜の姉さ」はどこにももういない。こうやって記録に残していただかなければ、いずれ風化するばかり。貴重な研究だと思う。
その中に、面白い記述があった。行商人は情報伝達人でもあったという実証記録。やはり、と思った。なぜかというと、話しは古道のことになる。
古道の多くは、山越えで集落をつなぐ道。最短の道なのだが、車社会になって人々は迂回の車道を選び、山道は廃道となった。物好き人がそんな山道を辿る。辿りながら思う。この道を通った人たちはどんな人たちだろうか。もちろん集落の人たち。しかし、そんなに頻繁に隣の集落に山を越えて行き来する用件があったものだろうか。頻繁に行き来する用があったのは、もしかしたら行商人では。胡桃沢氏の聞取りは、現在の国道113号線旧米沢街道を使った幹線道の行商人が主対象なのだが、浜から関川村まで20㎞弱の道程を徒歩で行商に来た時代の記録も載っている。近道があれば多少の山越え道でも厭わなかっただろう。
第1回目の松沢古道は、地図を見れば塩屋浜から朴坂まで一直線の道。今回の河内古道も岩船の浜からほぼ一直線。どちらも十数キロ。越前鯖街道の例もある。これらの古道は、生魚を運ぶ行商の道。そして、情報伝達の道。ムラの人たちは行商人の運ぶ海の生魚と四方山話を待っていたことだろう。胡桃沢氏の調査には、各地の出来事を伝えただけでなく、知り合いの家への伝言も頼まれていたことが証されている。
大昔から庶民の暮らしを支えてきた行商人の役割に、もっと歴史の光が当てられてもいいのにと思う。そして最短の距離をつないだ古道にも。
渡辺伸栄watanobu 
スタートは蛇喰集落の「おりのの碑」から。碑には大蛇伝説の悲しい事実が書いてある。創作物語に踊らされてはならないという、地元の歴史家故高橋重右エ門先生の意志が伝わってくるように読めた。
杉林の中の馬車道のような痕跡を辿って進む。50年程の杉が道路痕の真ん中に立っているから、道路があったのはそれ以前。植林前の伐採木の搬出用トラック道か、はたまた、それより以前の馬車道か。だとすれば、隣村への嫁入り道具を馬車に積み、花嫁は馬に乗ってなどと、島倉千代子「りんどう峠」の時代へ想いは飛ぶ。
スタートして途中休憩を入れても30分程で、市村境界の峠に着く。標高160mのそこが最高点で、あとは河内集落まで緩く下る。峠の下は桃川集落を通って岩船の町に流れる百川の源流域で、古い沢田の跡が残っている。ここまで耕作に通ったのかと一同感慨を深くして、今は木立で薄暗くジメジメとした水田の跡を歩き、沢に下りて渡渉する。
その後何回か渡渉するのだが、そこは既にヤマビルの棲息地。沢の中でも、藪道の中でも、待ってましたとばかり。衣服についているのを見つけるたびに、キャー、ギャー。街中でこれほどの声が上がれば、パトカー出動間違いなしの事態。その姿態の気味悪さからなのだが、実はそれほど悪さをするわけではない。せいぜい喰い付いて血を吸われるくらい。下見の時に私も喰い付かれたが、ちょっとチカッとする程度。難点は吸われた傷跡の血が中々止まらないことくらいだが、キズバンを張っておけば何のこともない。Unqさんなど下見では首の後ろや耳の後ろなどそのほか、何か所も喰われてチンダラマッカになったのだが、なに、翌日会ったら何事もなかったような顔をしていた。それに比べたら、ダニは実にたちが悪い。2回目の長峰道の下見で私が喰い付かれ、翌日発見したときには、全身隠れるほどまでに喰い込まれていて、ついに医者がかり。診療所の名医にメスで切開してもらい、破傷風の予防注射やら、抗生物質の投与やら、その薬の一種は強烈で副作用に下痢を伴うという始末。長峰道の本番でも美女が一人ダニにやられ、私と同じ運命に。だから、ヤマビルなど可愛いもの。濃い塩水を吹きかければ、たちどころに縮まって皮膚から衣類から転げ落ちるのだから。とは言うものの、今こうやって画像で見ているだけで何やら背中がムズッとする。
最後は丸太の二本橋を恐々渡って、本日の冒険行終了、あとは長い車道歩きのみ。高い峰に登るでなし、素晴らしい景色を眺めるでなし、道なき山中の藪を漕いでワーワーキャーキャー、こんな山の楽しみ方もあるのだと、参加者の皆さんから教えていただいたようなもの。猛暑も忘れ、日頃の憂さも忘れ、ひととき童心に戻れる楽しさと言えばいいだろうか。難しい理屈を抜きにして、それが古道歩きの楽しさです。
<コースとタイム> 蛇喰「おりのの碑」前発13:40-14:05峠-15:01二本橋-15:43河内集落センター着
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