綿野舞(watanobu)山歩紀行2018
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9月18日 雲上の稜線 国境跨ぎ越す
谷川岳1977m 茂倉岳1978m 新潟県湯沢町・群馬県みなかみ町  地理院地図は→こちら 
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上越国境をなす谷川連峰のここは、谷川岳から一ノ倉岳を過ぎ茂倉岳へと繋がる稜線の上。左側が越後、右側が上州で、稜線の中央を国境線が走る。今ちょうど、境界を飛び越えたところ。本人がそれを意識していたかどうかは定かではない。もったいないことだが、多分無意識だっただろう。だが幸いなことに、その貴重な一瞬をカメラがとらえていた。
この日、土樽駅で始発電車に乗り土合駅に下車、RWで天神峠へ上がり、谷川岳へ。そこから群馬・新潟の県境稜線を歩いて、一ノ倉岳、茂倉岳と辿り、茂倉新道を下って土樽駅に戻った。名作「雪国」に倣えば、この県境は上越国境となる。だからつまり、上越線清水トンネルで地中の国境を越え、谷川岳から茂倉岳までの稜線を辿って天上界の国境を再度越えたことになる。面白い山旅となった。
  渡辺伸栄watanobu
土樽駅に車を置き6:28の始発電車に乗って、ここ土合駅に降りた。日本一のモグラ駅と大看板にあったが、それは東京方面からの下り線地下ホームのことで、我らは上り線だから地上ホームだった。かつて、列車で谷川岳に来る登山人で地下からの長い階段廊下は大賑わいだった時代がある。それも今は昔。駅前には廃屋となった宿泊施設と、車も滅多に入らないのだろう荒れた地面の広場。往時の面影は、不釣り合いなほどに大きく立派な駅舎だけ。ただ、谷川岳と茂倉岳の間の縦走に、この二駅間の上越線を利用する登山人はたまにあるようだ。土合に車を置いて、茂倉から下って列車で戻る手もあるが、18:07が最終便、逃したらアウトだからキツイ。その点、我らは2時起きして3時出発で始発に悠々間に合い、なおかつ土樽に戻ったのは18:30。やはり、早起きは三文の得。
平日8:00営業開始のRWに乗って上がった天神平。ここからリフトで1500mの天神峠まで楽上りする。右に白毛門と笠ヶ岳が見え、雲を被った朝日岳も天神峠に上がった頃には雲が消え、その奥には巻機山まで見えていた。谷川岳の山頂付近はまだ少し雲の中だが、山頂予報は絶好天。この後、雲はどんどん上がっていくだろうと期待を大きくして、天神峠から歩き出した。平日ながらさすがは人気の谷川岳、老若男女と前後しながらまずは谷川岳山頂を目指した。予報は外れることもあるなどと思いもせずに。
天狗の留り場と名付けられた岩の上に立つと、上州の山々が一望できた。この小母さん、左の山を指差して「あれが苗場山」とおっしゃる。否否、笑っている場合ではない。形の似た山を見つけるとすぐに自分の知っている山の名を言いたくなるのは、初心者の常。私も何度Unqさんに笑われていることか。あれは確か三峰山で、右の台形は吾妻耶山、中央が子持山で左右遠くに霞むのが赤城山と榛名山。思えば上州の山にも随分と詳しくなったものだ。登った山はオレの山。
4年前の残雪期、この斜面をスキーで下る人がいて羨ましく眺めたものだ。今は、初秋。ナナカマドの実が赤く、斜面には草紅葉。なんともゆったりと雄大な景色。稜線のずっと先、ガスの中に肩の小屋の所在を印す標識が時々見える。あそこまで長い峰の道をゆっくりと上がる。紅葉のはしりを楽しみながら。
どうやら予報は外れたらしい。雲が晴れるどころかますます濃くなり、寒気も強まった。谷川岳の双耳峰、トマノ耳とオキノ耳は展望全く利かずガスの中。山頂を越えて、奥の院の辺りの風除地で昼食休憩。ここから先、一ノ倉岳方面へ向かう登山人はほとんどなく、静かな稜線歩きとなった。それでも、ここは1900mの高山、紅葉は早い。色づいた木の葉、草紅葉、秋の草花など、眺望が利かないなら利かないなりに、山の楽しみはある。あの炎暑の夏を思えば、早々と紅葉を楽しめるのも幸せというものだ。
まだ紅葉がそれほどでもないところでも、道端の何気ない草花や実に、初秋の風情が立ち込めている。この時季のイワショウブは特にいい。元々白い花が、少しずつ色づいて実を稔らせていく微妙な色合いの変化がいい。
これまで谷川岳には2度来ているが、オキノ耳より先には進んだことがない。だから、魔の山と恐れられた谷川岳一ノ倉沢の岩壁を覗き込める一ノ倉岳の「ノゾキ」を楽しみにしていた。だがしかし、ガスが立ち込めて視界はゼロ。多分、また年甲斐もなくあの岩場に挑みたいなどと馬鹿なことを思わせないようにと天の配慮なのだろう。一ノ倉岳を越え、茂倉岳を越え、矢場ノ頭まで緩やかに下る稜線が続く。雲中人となってその稜線を歩く。
茂倉岳から先の稜線には不思議なくらいにウメバチソウが咲き続いていた。どこまでもどこまでもウメバチソウとコゴメグサの咲き混じる道。珍しい花でも、あるところにはあるものだと常々思ってはいるが、それほど珍しくもないウメバチソウも、これだけ数があるとやはり驚く。
逆に、たった二株だけだったのがこの花、オニシオガマ。過去に見たのは一度だけ。3年前の栂海新道山行の初日、蓮華温泉の登山口で見た花の名を覚えていた。あのとき、路傍にすうっと一本だけ孤高に立っていたこの花の姿とその名が印象的だったのだ。悪名は無名に勝るとか。 
茂倉岳を過ぎて矢場ノ頭までは緩やかな稜線の延長なのだが、そこを過ぎると林間の長い長い下りとなる。途中、タマゴタケがあまりに綺麗なのでカメラを向けた。花も紅葉もなく、延々と続く下り道。退屈を紛らわすためにと、これまでの山行の思い出話をまるで千一夜物語のように交互に次々と話す。お陰で、終点の土樽駅までの2時間45分、単調な山道を楽しく下ることができた。千一夜、グッドアイデアというものだ。
茂倉岳で国境の稜線と別れて茂倉新道へ入ったが、国境稜線は北上して清水峠へ向かう。そこは、朝日岳、白毛門を越えて土合へ戻る馬蹄形縦走の道。4年前の残雪期に白毛門に登って以来、いつか馬蹄形縦走を歩いてみたいと思っていた。だから、今回はその下見のつもりだったのだが、天神平から真向かいの清水峠を望み見ただけで、その後は全く見通しができなかった。来年こそは。
<コースとタイム> JR土樽駅発6:28-JR土合駅着6:38 谷川岳RW営業開始8:00
天神峠発8:40-熊穴沢小屋9:21-トマノ耳11:04-オキノ耳11:26-一ノ倉岳13:12-茂倉岳13:35-矢場ノ頭15:45-土樽駅18:30
 ここに載せきれなかった写真はYouTubeにあります ⇒こちら 
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