綿野舞(watanobu)山歩紀行2018
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2月25日 そそり立つ 雪の稜線 飯士山(いいじさん) 
飯士山 1111.2m 新潟県湯沢町・南魚沼市  地理院地図は→こちら
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2015年の連休、会の山行はこの山だった。私は不都合で参加していない。越後湯沢のフィッシングパークから登るその山行、随分の難行苦行だったらしい。この山の麓を通る車中度々話題になるが、登っていない私には所詮他人の山。
この日、当初計画は裏磐梯グランデコスキー場からの西大巓。が、生憎の強風予報。近辺高山は軒並み強風。千mの飯士山なら風は弱く数m予報。岩原スキー場もあり、山とスキーと一石二鳥、この山に決定。
行って見れば、雪の飯士山に登る人はないらしく、トレースもない。鋭く屹立した雪庇の稜線は人を寄せ付けない威厳を漂わせている。が、人には添うてみよ馬には乗ってみよ、山には登ってみよだ。いざ山懐に入れば、飯士山、優しく心地よく迎えてくれた。無垢の新雪を漕ぐその爽快さ。雪の魚沼を見下ろす山頂の気高いこと。かくて、ついに飯士山もオレの山になった。登った山はオレの山、不遜ではなく親しみの度合いが違うということだ。
 渡辺伸栄watanobu
岩原スキー場の麓から見上げると、目立って屹立する三角錐の山、あれが今日目指す飯士山。さすが上田富士と呼ばれるだけあって、なかなかの秀峰。山頂から右に流れ下る稜線がゲレンデの最上部に繋がっている。そこまでゴンドラ1本で行けるつもりが、今は営業していないという。やむなくリフト3本乗り継いで980mのゲレンデ最上部へ向かう。驚いたことに、各リフトとも行列待ちの繁盛ぶり。2本目のクワッドリフトなどなんと30分待ちの混雑。いやはや、スキー場人気がここまで挽回したかと、昭和4,50年代のあの大繁盛ぶりを懐かしく思い出しながら、あれからみればまだまだと、待つのもさほど気にならない。
980mのリフト最終地点に滑降用具を置いて登山支度を整えた。飯士山の標高は覚えやすい1111m。ここから山頂まではわずか標高差130mほどだが、雪庇のせり出した鋭角な山頂まで白い雪稜が一本道になって続いていて、爽快な雪山気分を味わえそうだ。それにトレース(登山者の足跡)なく、無垢の新雪を漕ぐのはこの時期の無常の喜びだ。ただし、雪稜の左側は雪庇になっているから、ルートの設定は慎重に判定しなければならない。踏み抜けや崩落を防止するため、稜線の真上は避けてやや右の傾斜部を通ることにする。
リフトから見上げたとき山頂稜線に人のような列が見え、誰か登っている思いとホッとした。探検者冒険者ならがっかりするところなのだろうが、当方は、人影に見えたのが実は立木だったと分かって逆に少々がっかりした。誰も登っていないということは、果たしてこの時季登れる山なのかどうか不安になる。後刻、下山時のゲレンデ途中で、我らのザックとスノーシューを見て、飯士山は登れるのかと驚いたふうに尋ねてきたスキーヤーがいた。大丈夫だったと答えると、じゃあ今度登ってみようかとそのスキーヤー2人組。あの屹立した三角錐は人を寄せ付けないような、人を魅入らせるような微妙な雰囲気を漂わせている。
雪は締まっていてそう深くは沈まない。ただ堅雪の上に積もった新雪があって、堅雪との境でたまに滑るので慎重に一歩一歩踏み固めて歩く。雪稜の先端部は雪庇でそこは避けるが、余りに傾斜側によると新雪雪崩を誘発しかねない。絶妙の間合いを計りながらUnqさんがルートを開き、後ろにKeynさんが続く。その後方には白く雄大な巻機山。
手を伸ばせば、飯士山の鋭角頂点に届きそうな場面。あの三角錐の頂点に果たして3人立てるかと心配したら、豈図らんや、やや広い山頂稜線がこの鋭角頂点の後ろに広がっているのだった。つまり、飯士山は三角錐ではなかったということだ。
山頂から湯沢の盆地。右端に越後湯沢駅と市街地、中央が三国峠への谷で左端が清水峠への谷。Keynさんの後方から右に続く尾根は夏道の稜線で、会の仲間が2015年5月に登った道。湯沢市街地の手前に見える鋸尾根、その岩峰越えの難行苦行は今も語り草になっている。
山頂に立って北を望めば、石打塩沢の南魚沼盆地と魚沼丘陵。飯士山の形は結局南北を向いた切妻屋根の形といえばいいか、だから、南と北の両面は三角錐、山頂に立てば広い稜線上ということになる。ただし、これは東峰と呼ばれる三角点のある山頂の形のことで、そこと少し離れて西峰と呼ばれる1072mのピークがもう一つあり双耳峰の形態でもあるらしいから、見る方角によっては少々複雑なのかもしれない。
下山を開始して急斜面を終えホッと一息、振返れば山頂に続くトレース。これを見れば後に続く登山人が出てくるに違いない。事前にネットで冬の飯士山の登山記録を探したのだが、無雪期ばかりで積雪期はなかなかなく、2016年2月の記録が1件だけ見つかった。関東からのその一団の記録には、冬の飯士山の素晴らしさが綴られもっと登られてもいい山だとあった。全く同感。だが、雪山はどんな山でも安全ということはない。当然のことだが、自己責任で十分な準備と注意が必要なことは言うまでもない。 
 
だから下山は3人ロープを結んで繋ぎ合った。万一誰かが滑っても、残りの者がすぐにピッケルを雪に挿し込むなどして確保できる可能性が高くなる。頭の中では尾根の反対斜面に下りて確保することも想定訓練していた。ただし、同時に二人反対斜面に跳び込むと釣り合い上どうなるのか、不安が残る。一人は直ちにその場で確保優先、もう一人が反対斜面へというのが理想だろうか。いずれにしろ、ロープで繋がると安心感がでる。安心感が出れば腰が引けずに安定したステップを切れる。ロープにはそういう効果もある。
 
無事下山して、雪上テーブルを作り遅い昼食。後から飯士山の頂が微笑んでいるように見えた、よう来てくれたと(登山人はいつも自己中なのでした)。このあと、リフトの最上部に置いたスキー・スノボに履き替え、標高差590mを一気に滑降してスタート地点に戻った。ゲレンデはアイスバーン状態、背に登山荷を負うとバランスが少々狂うが、風を切るスキー下山の爽快さは他に比べようがないほどのものでありました。
 
<コースとタイム> 岩原スキー場駐車場発9:50―9:55チケット売場(リフト待ち)―10:11リフト1本目10:21―(リフト待ち)―10:50リフト2本目10:58―(リフト待ち)―11:09リフト3本目11:16―(登山準備)―リフト最上部出発11:42―12:45飯士山山頂13:37―14:00リフト最上部付近(昼食休憩)14:42―(滑降準備)―滑降開始15:06―15:40チケット売場(滑降終点)―15:44駐車場着
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