綿野舞(watanobu)山歩紀行2019
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7月8日 天空の大草原の小径行く
焼石岳1547.3m 岩手県奥州市  地理院地図は→こちら 
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ここは岩手の名峰焼石岳の山頂直下、標高1450mの天空に広がる大草原。ひと月前ならハクサンイチゲで一面真っ白になるという。左右に連なる焼石連山の峰々を仰ぎながら雄大な気分に浸って一本道を歩く。山頂稜線からは、眼前に富士と見紛う鳥海山の麗姿。遠く月山、南に栗駒、北には早池峰に岩手山、明日行く秋田駒、遠く森吉、みな馴染みの山々。本来は昨日から2泊3日で北岳山行の予定だったが、梅雨前線が南方を上下していて天候定まらず、急遽東北の山に変更。昨夜は麓のひめかゆキャンプ場に前泊して今日焼石岳、明日は秋田駒。予報通り天候に恵まれた。それにしても焼石岳、なかなか趣のある変化に富んだ山だった。
 渡辺伸栄watanobu
焼石岳は水の豊富な山のようだ。地図を見ると周囲には大小の沼が散在している。今回の登山ルートにも中沼、上沼があり、途中の道もせせらぎの傍らを通ったりときには流れの中を歩いたり、なかなか乙なルートだった。湿地には様々な花が咲いていて、一つ一つよく見てみると中々味わい深い花ばかり。とりわけ今はヒオウギアヤメが見頃。
ズダヤクシュは小さくて目立たない花。山に入ればどこにでもある、そう珍しい花ではない。しかし、こうやってマクロで撮ってみればなかなか見応えのある花。乙な登山道に似つかわしい乙な花だ。
ミツガシワ。湿地の中に直立しているのを少し離れた所から見たときは、イワショウブかと見間違えた。周りにイワショウブの葉があったせいでもあるのだが、それにしては、花のつき方が立派過ぎてどこか変。その後、すぐ近くに咲いているのをよくよく見れば、全く違ってモジャモジャの面白い毛がびっしり。
ミネザクラ。本居宣長の歌のとおりの写真が撮れた。やはり、山桜には朝日が似合う。
シラネアオイもいい色で咲いていた。紫は元来高貴な色とされているが、この花の淡くやわらかな紫は、ツンと取り澄ました高貴さとは程遠い,優しい気高さ。
ヒナザクラは好きな花の一つ。楚々とした感じがなんともいい。鄙にも稀な花かと思っていたが、漢字では雛桜と書くらしい。雛は小さきものの意。コザクラなどにしなかったのは、命名者のセンス。
オノエラン。小さくて上品な花。中心のWはチャームポイントなのだそうだ。漢字で尾上蘭、尾根の上に咲く花だからと言われればどこか味気ない。
標高1420mの泉水沼で大休止。登山口が720mだから、ここまで700mの高度を上がった。山頂まではあと120m程、25分程度の行程になる。それにしては、あの山頂まで結構な距離に見える。
泉水沼からほんの少し登ると山頂に続く稜線。と、突然目の前に秀麗な山容が現れて、思わず「おっ、富士山‼」と叫ぼうとして、あわてて声を飲んだ。ここは陸奥、奥州、富士山があるはずもない。この辺りで雪を抱く独立峰といえば鳥海山に決まっている。それにしても、こんな近くに見えるとは。想定外に驚く一同。
登頂記念撮影。親切な方にシャッターを押してもらった。その方も押してもらいたかったのだから、相身互い。右に鳥海、左に月山。2日もかけて遙々遠くまでやって来たが、所詮は釈迦の掌の中。焼石の山頂には一等三角点があった。
それにしても、ここから見る鳥海の形のいいこと。出羽富士とはまさにまさに。あの山頂に何度か上がった。あちらからこちらを見たはずなのだが、焼石には、これまでは全く気付かなかった。次に登った時は必ず焼石のことを思うはず。山は登ってみなければ分からない。登った山はオレの山。
東側から登った焼石岳は特徴のある形をしていた。高さ1400m超の大きな台形の上に、高さ100m程の山々が連なっている。台形の上は広大な草原。高原の大草原に横たわる丘陵を眺めながら歩くという風情で、一本道のそぞろ歩きはなかなか趣があった。時季になればここはハクサンイチゲで一面真っ白になるほどらしい。
草原の池塘に焼石の山頂が逆さに映っていた。こんな何気ない光景や草の中の小さな花々がそぞろ歩きを楽しませてくれて、趣を一層深くする。
草に隠れて潜むムシトリスミレ 
登山口になっている中沼。朝は霧の中だったが下山時には焼石の山頂まできれいに見えた。風がなければ逆さ焼石が映せたのかもしれない。 
ここに載せきれなかった画像はYouTubeにあります。⇒こちらから
<コースとタイム> 登山口発6:00-6:37中沼-9:50泉水沼-10:20山頂10:33-11:00焼石神社分岐11:48-15:06登山口着
前泊日(7日)は、のんびりと東北散歩。登山口のある奥州市を素通りして花巻へ直行、賢治の足跡を訪ねた。何しろUnqさんが大のファンで、話を合わせないと非文学人と見做されるので、内心皆結構必死。
登山口には奥州湖という大きな人造湖がある。岩手と秋田を繋ぐ旧仙北街道が水没したのだとかで、番所跡の石碑とか弘法の枕石とか、湖畔にある史跡を見学。 
前泊地はひめかゆ温泉ハーブの家。ひめかゆとは秘めた湯か、はたまた姫様のお粥かと、奥ゆかしいストーリーを期待したが、帰宅してネットで調べれば、どうやら姫海芋(ひめかい)がなまったのらしい。海芋は渡来の芋の意で、サトイモ科のミズバショウの仲間を指すのだそうだ。小さくて可愛い花なので姫がついたとか。焼石の麓に群生地があるのだという。ハーブの家とはその温泉に隣接するコテージのこと。かつてはハーブ園で売り出したのかもしれないが今はこの一花壇だけ。 
で、ハーブ園(にするつもり)だった広大な緩斜面の敷地は今は草の原。なぜか、打ち捨てられたような遊具が一基。なんでもやってみようの精神、使用禁止の看板がなかったから、ま、いいのだろう。
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