綿野舞(watanobu)山歩紀行2019
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8月4~8日 富士を連れ 一万尺を六つ越し 
悪沢岳3141m 赤石岳3120.5m 静岡市  地理院地図は→こちら 
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南アルプスの正式名称は赤石山脈。その名の元となった赤石岳へ、前後泊を入れて5日間の大遠征。最初の千枚岳は2880mながら、その後に続く6峰は、丸山3032m、悪沢岳3141m、中岳3084m、前岳3068m、小赤石岳3081m、赤石岳3121mと、みな一万尺超えの大物。一つ一つ鞍部に下っては登り返して越えていく。息を弾ませて登り着いた山頂で待っていたのは360度の大展望。稜線、圏谷に待ち受けるのは高山の花々、今が盛りの千紅万紫。そして、天空漫歩の道連れは、富士。稜線の東側に寄り添いながら、黄金の衣装をまとったり白綿の頭巾をかぶったり。赤富士、青富士、黒富士、朝な夕な様々な姿態を見せてくれた絶景の富士。
まずは、8月6日8:36悪沢岳山頂へ向かう稜線からの富士。一万尺の天空漫遊気分爽快。これだから高山登山はやめられない、最早病みつき中毒。だから平時はせっせと走る。
 渡辺伸栄watanobu
時間は前後するが、8月5日18:35千枚小屋からの夕景。マルバダケブキ群れ咲く斜面の先に夕焼けの赤富士。鹿の食害が進む中、マルバダケブキはどういうわけか鹿が好まず繁茂している。そんな些末な生物界のことに富士は我関せずか。富士の左肩、ちょうど雲がたなびく上、裾がやや台地上にカーブする辺りが5合目で、昨夜一晩中ライトが光って見えた。きっと富士登山者で大賑わいだったのだろう。いつか行かないわけにはいくまい。
翌8月6日4:52、千枚小屋前の朝焼け。富士のすぐ左の山並みは三ツ峠山の山塊で、左に離れた雲海に横たわる山並は大菩薩嶺のある山塊のようだ。朝日は、その山塊の上からこの5分後に顔を出した。刻々と変化する朝焼けの空。黄金に輝く緋衣を身につけようとするかのような黒富士をじいっと見続けた。
8月6日5:43 日の出からほぼ1時間後、行動開始の時刻。雲海が消えていくと不思議な雲の光景が現れて、暫し歩を止めた。光と雲と影の織りなす幻想の青富士。
6日9:44 悪沢岳山頂でたっぷりと眺望を楽しんで、さて次へと立ち上がった頃、ずっと連れ立ってきた富士が、突然綿入れのような衣を身に纏いだした。この日の行程は、折角の一万尺稜線歩きをゆっくり楽しもうということで荒川小屋までにした。当初は赤石岳避難小屋まで進むつもりだったのだが、Unqさんの計算が結果的に大成功だった。コースタイムで5時間ちょっと。だから、要所要所でゆったりと時間をとって十分に天空の漫歩を楽しめた。荒川小屋へ下るカールの斜面は一面のお花畑で、そこもたっぷりと楽しんだし、その上、お花畑を過ぎる頃から雷が鳴りだし、なんと小屋に着いた直後に雷雨が来た。当初の計画通りだと、たとえ急ぎ足で進んでいたとしても、時間的には赤石岳への登り斜面で雷が鳴り、小屋に着く前に雷雨に遭った可能性が高い。だから、行程短縮は大成功。Unqさんの好判断と雷や雨に当たらなかった僥倖に感謝感謝。
7日4:45 荒川小屋からの朝焼け。荒川小屋の東面の視野は狭い。朝日はこの30分後、左端の尾根の端から登りだした。御来迎などと線香臭い語を持ち出す気はさらさらないが、朝の日の出はやはり心地よい。今日もまた爽快な一日の始まり。
7日7:31 小赤石岳の山頂直前、チシマギキョウが咲き競う一万尺の稜線。天空の漫歩道から花と富士を一枚の画面に収められるのは、南アルプスならではの楽しみ。赤石岳は富士から最も近い一万尺超の山になるのだろう。とりわけ富士が絵になるような気がした。
7日8:33 今回山行の最終目的地、赤石岳山頂。標高は悪沢岳の方が若干高いが、何といっても赤石山脈の盟主。ここに登らずば、南アルプスに登ったことにはならない。北岳がいくら高かろうとも、あれは北の端の山なのだ。それにしても、こうやっていつ写真を撮っても富士が後ろに控えている。さすが富士というべきか、さすが南アルプスというべきか。いやいや、3日間の天候に感謝しなければ。併せて、高山遠征となるといつも一緒のUnqさん、Youmyさんに改めて感謝だ。
富士山以外の展望も素晴らしかった。北の方、手前に塩見岳、その後ろに仙丈ケ岳、右へ甲斐駒ヶ岳、間ノ岳、農鳥岳、更に右に地蔵・観音・薬師の鳳凰三山。どれもみな登った山、一つ一つが懐かしい。そして、かつてあの峰々から眺めた南アルプス中央部の荒川岳主峰悪沢岳に今立っている。あの頃はどれが荒川岳でどれが赤石岳かさえ分からなかった。多分これからははっきりと名指しできるはず。登った山はオレの山、それが嬉しい。北岳は間ノ岳に隠れて見えないが、千枚岳の頂からは間ノ岳の陰にちょこんととんがりを見せていた。あれもオレの山。
悪沢岳の頂からズームでUPにした北アルプス槍・穂高連峰。昨夏、槍から大キレットを渡って前穂まで繋いだあの岩稜、一つ一つの山の名を上げることができる。今もまた大キレットから北穂の小屋を目指してあの垂直壁を攀じっている登山人が見えるような気がする。
大聖寺平を過ぎて小赤石岳に登る急斜面から。伊那の盆地を挟んで中央アルプス。その直ぐ後ろ右端に顔を出しているのが御嶽山。あの山頂に立ってからもう7年になる。大噴火のずっと前、私にとっては初めての3000m超の山。その左後方に見えるのは加賀の白山。左に続く峰は別山。どちらも懐かしい山。それにしても直線距離にしておよそ150㎞、近くに見えるものだと高山の展望に妙に感心。それだけ空気が澄んでいたということで、これも感謝すべき僥倖。 
小赤石岳山頂目前。振り返れば千枚岳から越えてきた荒川三山の稜線。悪沢岳から中岳、前岳、小赤石となだらかな一万尺の峰の道に見える。ところがどっこいだ。悪沢岳と中岳の間には深いコル(鞍部)があって、垂直に近い岩壁に刻まれた道を高度差200m一気に下り、中岳へは傾斜は緩くなるが高度差はほぼ同じ分だけ登り返す。更に、中岳と前岳の間の分岐から荒川小屋へは400mも下がり、そこから小赤石岳まで450m登り返す。そうやってUP・DOWNを繰返してここまで来た。一歩一歩進んできた道、感慨一入。登山は単純明快、一歩一歩の原則。この先、小赤石と赤石の間にも高度差80mの小鞍部がある。3000m超の高所では80mのUP・DOWNだって、決して容易くはないが、全て一歩一歩。それ以外の選択肢はない。ところで、画面右後方の山を八ヶ岳だとばかり思って眺めていたが、帰宅してUnqさんに指摘され地図で確かめると、あれは金峰、瑞牆、甲武信の山塊。どれもみな懐かしい山ばかり。
またまた時間が前後してしまったが、ここが中岳と前岳の間から荒川小屋へ下る斜面。道の先に小屋の屋根が見えている。小屋からまっすぐ先(画面上方)へ進めば、尾根上に少し開けた大聖寺平。そこから小赤石岳へ一気の登りとなる。
荒川小屋へ下る前岳南東側の斜面は、花畑で知られているとのことで、Unqさんの行程短縮は、ここを急ぎ足で通り過ぎたくないのが第一義。目論見がずばり的中、キャプション不要の見事な花盛り。
ここの一帯は鹿の食害防止のためネットの柵で保護されていたが、赤石岳から赤石小屋へ下る谷の斜面は保護柵なしでも、結構な花畑状態だった。そこはかなりの急斜面だったから、まだ鹿の侵害を受けていないのかもしれない。いずれにしろ、鹿の食害は猿や猪の比ではないようだ。バンビちゃんなどと言われ一見可愛らしい顔つきをしているが、これは相当の曲者ですぞ。我が関川村でも見かけるようになったという話もあるし、これから先が案じられる。
さて、時間は一気に進んで、ここは赤石岳から高度差400mを下った富士見平。バックは赤石岳と小赤石岳。2時間ほど前まであの頂に立って、あの稜線を歩いていた。下山はいつも後ろ髪引かれる思いがする。もう2度と来ることはないかもしれない。山は全て一期一会。それだけに想いは残る。名残は尽きない。
荒川三山。右端が悪沢岳、荒川東岳などというつまらない別名を持つ。中央が荒川中岳と荒川前岳。この二つの山はどう見ても一つの山。現に日本3000m峰に前岳はカウントされてない。因みに3000m峰は21座あって、今回山行では前岳のほか丸山、小赤石岳もカウントされていない。これら3山は、中岳、悪沢岳、赤石岳のそれぞれの属峰と見做されている。理由は距離が近いこと、間のコルが浅いこと。だから、今回山行で3000m峰21座中、3座登頂したことになる。因みの因みで、これまで登頂した3000m峰は今回で18座となった。残るは3座、富士と農鳥(西農鳥)と聖岳。ここまでくれば、登らずに残しておくわけにはまいるまい。さてそれはそれとして、UP・DOWNのあの稜線、よくぞ歩いたものだと自画自賛。じっと我が足を見る。
その聖岳が、行程中ずっと赤石の隣に見えていた。ここは赤石小屋。左に聳えるのが聖岳。右は兎岳だろうか。南アルプスはあの聖岳からずっと奥へ続き光(てかり)岳という面白い名の山が南端になる。さていつか相まみえる日が来るか、念ずれば通ず。6日の行程を短縮した分、7日の行程は長丁場となって、大蔵男爵の謂われある大蔵尾根を一気に下った。とは言え、下山すれば即椹島ロッジに投宿だから、暗くなる前に到着できれば良いと、これまたUnqさんの計算。予定通り16時前の到着で、3人そろって恒例のソフトクリーム乾杯。今回もまた、素晴らしいの一言では語り尽くせない感慨深い山行となった。同行のお二人と、天候に感謝感謝。
ここに載せきれなかった画像はYouTubeで⇒こちらから
<コースとタイム> 1日目(8/4) 畑薙ダム-<バス>-椹島ロッジ
2日目(8/5) 椹島発5:54-11:25見晴台12:13-13:30駒鳥池13:46-14:41千枚小屋
3日目(8/6) 小屋発5:48-6:40千枚岳6:52-8:10丸山-8:56悪沢岳(荒川東岳)9:40-11:20中岳12:19-12:55前岳13:00-14:47荒川小屋
4日目(8/7) 小屋発5:40-6:20大聖寺平-7:54小赤石岳-8:27赤石岳9:10-11:25富士見平11:40-12:11赤石小屋12:25-15:55椹島着
5日目(8/8) 椹島ロッジ-<バス>-畑薙ダム
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