綿野舞(watanobu)山歩紀行2019
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9月28日 中納言が祀ったという観音へ
名倉古道 最高点峠300m 新潟県関川村  地理院地図は→こちら 
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鎌倉幕府を倒した後醍醐天皇に万里小路中納言藤房なる側近がいた。その貴人が諸国漂泊の途次、この山道を通り山中岩窟に馬頭観音を祀ったという。700年前の故事が今に伝わる名倉道、その痕跡を辿る関川歴史館主催古道探索会。今年度第4弾めともなると、参加者は絞られてきて少数精鋭、いずれ劣らぬ藪漕ぎ健脚連。山越え谷越え沢徒渉。辿り着いた岩窟に今は観音像なく、代わりに大山祇神を祀る祠が据えてある。夢枕に立った観音様のお告げにより里へ移したのは江戸時代、今から200~300年前のことと伝わる。名倉道は出羽国へ抜ける古街道。500年前に大里峠を通る米沢街道が整備されると、名倉道は廃れたのだろう。さすがの観音様も寂しくなって里へお移りになったということか。
 渡辺伸栄watanobu
<コースとタイム> S(安角集落)発9:15-9:43高度207m地点-10:00迷路の森(小休止)10:10-10:45峠(送電線鉄塔下)11:35-12:30名倉観音跡12:55-13:47G(沼集落入口)着 
スタートの安角集落からは、舗装された林道を歩き、それがやがて無舗装になって高度207mのちょっとした峠を越える。峠を下り終わると林道から藪道に入るが、鬱蒼とした杉林内には重機が道をつけた跡が何本も錯綜していて、一年前の下見では、ルートを見つけるのにUnqさんと二人随分右往左往した。それで、この辺りを勝手に名付けて「迷路の森」とした。草藪だった森の迷路も消え本格的な雑木の藪中を漕ぎ登ると送電線下の管理道路に出、間もなく鉄塔が現れる。そこが大石川と沼川の分水嶺峠で、ルート最高点高度300m。ここで小一時間の昼食休憩。
下りは送電線の管理道を通り、立派な林道に出る。小綱木川の分岐点三叉路で林道を南下する。林道から川筋の藪中へ入り、沢を渡渉し、斜面を藪漕ぎで登ると頭上に大岩が聳え、その下に岩窟がある。そこが名倉観音跡。
小綱木川の分岐点辺りは3本の沢が合流する三角地帯で、川沿いに平坦地が形成され、一見して水田だったとわかる荒れ地が広がっている。その辺りが名倉という土地で、かつては住家もあったという。名倉道の名はこの地名からきている。1500年代に米沢十三峠の街道が整備されるまでは、この名倉道が荒川左岸の出羽街道として使われていたという。安角から西へは大石川対岸の鮖谷から低山を越えて幾地、大長谷へと繋がる。観音跡からは舗装の林道を下って沼集落入口に出る。今では珍しくなったハサに稲が乾されていて、懐かしい秋の香りが漂っていた。
大藪を漕ぎ登り終えて、峠に到着。頭上に秋の味覚。童心に返る人々。ここは地図上、磐梯朝日国立公園区域のちょうど境界線上。
名倉観音へ沢を渡渉。参道の跡には細い橋が架かっているのだが、去年の下見時点で、さて何人目の人が落橋災難に遭うだろうかという代物。運を天に任せるのはやめて、安全第一に。
ここが名倉観音跡の岩窟。祠の中には大山祇の御札。観音様への御経を用意してきたという平田氏が急遽玉串を捧げ神式の祝詞を上げる。次いで一同敬虔に拝礼。初めてこの場所へ来たのは9年前、それも歴史館の古道探索。その時に、ここの祠はもっと小さかった。去年来たとき、その小さな祠は脇にずらされて、代わってこの大きな立派な祠になっていた。ということは、それだけ信心深い方がいるということ。
信心の浅深はあろうとも、山中彷徨してここまで訪ね手を合わせたご利益は必ずや面々の身に注がれるに違いない。
ショートショート<その1>
神は居る、確かに居る、我らと関わりの遠い彼方に。
アリ族は大岩の下に居を構え共同体をなしていた。自然がもたらす恩恵が彼らの命を支えていたが、ときに思いもよらない災難ももたらした。突然天から何かが襲い、運悪い者が命を失った。そんなとき、族の長老が神に祈る。祈りが深ければ神と交信できると信じていた。ある日、とんでもない災難が発生した。大岩が振動し族の居が破壊され始めた。長老は必死に只管一途に精魂込めて神に祈った。やがてして振動は収まり被害は拡大せず族の全滅は免れた。願いは神に通じた!長老は叫び、族の皆そう信じた。
N氏は庭づくりを趣味にしていた。庭には目には見えないほどの小さな蟻が行き来していた。N氏がそれらの一匹を踏み潰したとて、気付きようもなかった。ある日、N氏は庭の石の配置が面白くないと、金梃子を持ち出し、石を動かし始めた。石の下には蟻の巣があるのだが、N氏が頓着するはずもなく作業は続けられた。石は思いのほか重く、大汗をかいたN氏は、気が変わった。ふと何かが聞こえたような、誰かが囁いたような、それは風の音だったのか、汗のしたたりだったのか。石は思い描いた配置には至らなかったが、ま、無理せずにこのくらいにしておくかとN氏は作業を止めた。
アリ族にN氏は巨大すぎて見えず、N氏に蟻は極小すぎて見えてはいない。ヒトにとっての宇宙はピロリ菌にとっての胃中みたいなものか。
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