綿野舞(watanobu)山歩紀行2019
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10月6~7日 薬師大風 雲よ飛べ 風よ吹け
薬師岳2926.0m 富山市  地理院地図は→こちら 
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天気予報で県内近県の山々に当たったが、どこも思わしくない。唯一山頂見晴が望めそうだと予報されたのが富山の薬師岳。ただし強風予想。風で雲が飛ばされるのかもしれないと淡い期待を込めての1日目。太郎平小屋に近づくにつれて山頂付近の雲が飛ばされ青空も出てきた。薬師岳山頂の稜線がくっきり。これも僥倖とほくそ笑んだのもそこまで。翌2日目の山頂は厚い雲の中。稜線に出れば唸る風音、予想通りの強風。雲が飛ばされるどころか、たっぷりと湿り気を含んだ霧雲が谷間から次々と吹き湧いてくる。飛ばされぬようにと必死の俯き登り。ふと気づくと暖かい日の光。雲が割れ束の間の陽光、谷間の紅葉を一筋際立たせ、ときに富山湾まで見せる。が、それも、ほんの一瞬。どうにか山頂に辿り着いたものの休憩を取る気にもならず、まさに文字通りのピストン。とっとと下って、太郎平小屋で食べたラーメンの美味かったこと。
 渡辺伸栄watanobu
1日目(10/6)折立からの登山道はしかも濃い霧雲の中で、雨具を出したり脱いだり。それでも傘やポンチョで間に合う程度。やがて2000mを越えると雲海から抜け出し、上空は青空。明日登る薬師岳の山頂稜線、雲がすっかり吹き払われて特徴ある白い峰の全貌を顕わにしてくれた。山頂はどれだ?明日行けばわかるさ!などと言って、雨よけの傘がいつの間にか日傘に。長閑な秋のひととき、明日豹変する。
登山道に番の雷鳥。いつも夏の雷鳥ばかりで、冬毛に変わりつつある白い羽姿は初めて見た。この二羽が左側の叢に入ると、もう一羽そこにいて、どうやら親子連れだったらしい。
池塘に映った逆さ薬師。刈揃えたような笹の原と針葉樹の中に映えるダケカンバの黄葉。チングルマの葉の赤い色がなんともいいアクセント。
足下にはノギランの紅葉。この時季のノギランはグラデーションの色合い好ましく、とてもいい感じを出している。もう穂の粘りはなくなっているが、ネバリノギランかもしれない。
太郎平小屋の前から。去年夏歩いた奥黒部秘境の山々。右端・黒部五郎、中央右・三俣蓮華、中央左・爺ヶ岳とその後ろに鷲羽岳、三角のピークはワリモ岳、その手前に広がる台地が奥ノ平、そして左端・あの堂々とした山容が水晶岳。明日登る薬師岳はあの時の忘れ物。
その薬師岳が夕日を受けて微笑んでいた。忘れずによう来た、と。それにしては、翌日のあの荒れようはなんだ?
富山平野を覆う雲海に沈む夕日。この光景は昨夏と全く同じ。ただ違うのは、あのとき満杯状態だった小屋の宿泊者が今回は十数人だったこと。だから、小屋の前広場で夕日を眺める登山人もほぼゼロ。寂しいというより、こんなにゆったりと過ごせる山小屋は何とも贅沢感。誰構わずこれ見よがしに山自慢話を始める登山人がゼロ、これが特にいい。山こそ孤独であるべきだ。だから翌日すれ違った若い女性の単独行テント泊姿にはすっかり感心。決して見目形に惹かれたわけではない。
2日目(10/7)山小屋を出て向かう薬師岳は厚い黒雲の中。木道の太郎兵衛平にも結構な強風が吹いているから、あの黒雲の中は推して知るべし、覚悟を固めて進む。
それでも、我らが高度を上げるのに合わせて雲の方も上方に退いてくれた。この状況なら、山頂の眺め「まずまず」と出した天くら予報も満更ハズレでもないか。紅葉の山肌がなんとも気持ちよく、強風などどこ吹く風。 
たま~に雲に穴が開いて陽が射し込むと、この光景。ここの山は、秋の黄葉がウリなのだとか。真っ赤に燃える秋の山もいいが、こんな感じの静かな秋山もいい。耳にはカッパがバタバタと騒々しいのだが、なぜか気分は静寂。
気が付けば、麓の富山市街、富山湾、能登半島までうっすらと現れている。すぐにまた霧雲にかき消される一瞬の光景。
風に飛ばされまいと只管俯いて登ると、必然的に視線は足元へ。そこには見知った植物たちが彩鮮やかに秋の装い。その色合いといい風情といい、稜線の強風などどこ吹く風。
この吹き曝しのガレ斜面の先が山頂かと思いきや、そこは山頂一つ手前のピークで避難小屋が立っていた。薬師岳の山頂稜線は結構長い。山小屋を出て最低鞍部の薬師峠へ下り、そこから400mほど登り返して最初のピークが2700mでそこに薬師岳山荘がある。そこから200m登ると避難小屋のある2900mのピーク。太郎兵衛平から見上げた薬師の中心部に最も高そうに見えていた頂がそれ。山頂標識に見えたのは実は石造りの避難小屋。真の山頂はそのもう一つ先。山頂稜線の一番左奥に見えたピークは北薬師岳で、今回は未踏。立山から縦走すれば通る山。佐々成政の故事で名高いザラ峠はそのずっと先にある。いつかもう一度この薬師に登り、ザラ峠を踏んでみたいもの。眺望の良い時に。
山頂に着いたこの時間帯が、もっとも雲が濃く風も強かったのではないだろうか。とにかく記念撮影もそこそこに逃げるようにして下山。何しろ風雨を避けて居る場所がない。鼻水は垂れるし、カメラは濡れるし、メガネは曇るし。山小屋までほとんど一気の下山。お陰で一年前に新調したカッパに初めて手を通した。それほど、これまで天候に恵まれていたということ。山の凄まじさを久々に十分味わった。もっとも、山頂祠の扉を開けて御薬師様に手を合わせるのは欠かさなかったし、代表してお賽銭もきちんとお上げした。神仏には祈るに越したことはない。 
下山途中のアカモノ。シラタマノキにしろ、アカモノにしろ、その姿のままの命名。分かりやすくて実にいい。植物学者たちよ、すべからくかくあれかし。 
太郎平小屋に戻って。下山した後に教えてもらったのだが、このラーメン、知られた名物なのだとか。どおりで、格別の美味さだった。もっとも、ほとんど休憩らしい休憩も取らずに一気の山頂ピストン、そりゃあ美味いはずだ。それに、Ike会長が山頂まで担いでいってきたウインナーをここで温めてラーメンに加えたのだから、美味いのなんのって。あーありがたやありがたやの笑顔。
ここに載せきれなかった画像はYouTubeで⇒こちらから
<コースとタイム>
1日目(10/6)折立登山口発10:54-三角点12:43-太郎平小屋着15:22
2日目(10/7)太郎平小屋発6:06-6:24薬師峠-6:55薬師平-7:55薬師岳山荘-8:48薬師岳山頂8:59-9:47山荘-10:15薬師平-10:59薬師峠-11:25太郎平小屋12:10-13:50三角点13:55-14:56折立登山口着
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