山の記 2020
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4月25日 コロナ避け 奥山遠く 密やかに 
 日本平山 1081.0m 新潟県阿賀町・五泉市  地理院地図は→こちら
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どこの山で出逢った人だったか、思い出せないのだが去年か一昨年のことだ。その人が、日本平山へは登ったかと問うた。山の名に惹かれていつか登ってみたいと思っているのだがと答えたら、なかなか遠くて大変な山だと言われたのが印象に残っている。今回、念願叶って行ってみれば確かに遠い山だった。Unqさんの以前の山行タイムが無雪期で4時間、雪が固く締まっていればより短縮も期待できたのだが、実際は大違い。前前夜に降った新雪が残雪の上に積もって軟らかく足をとる。その上、少雪のため木々は完全には埋まっていなく所々藪が行く手を塞ぐ。予想外に時間をとってしまって、結局、登頂は諦め山頂目前で引き返すことにした。登りの途中、下山してくる若者二人組に「この先新雪が深いし、今からでは山頂は無理でしょう。時計を見ながら下山時刻を計算して、ちょうどよいところで引き返した方がいいですよ」と言われたが、その通りになった。この日遇ったのは、この二人ともう一人かんじきを着けた若者。トレースの礼を言ったら照れたように破顔一笑。彼の忘れ物を拾って持ってきて渡したYoumyさんへのお礼の言葉からも、見かけに寄らずなかなかフランクな人柄だった。コロナのために人けの山は避けることになっている。この山は、奥深い川内山塊のなかでも奥山秘境。さすがに人は稀。こんなとき、こんな奥山に密やかにやってくる若者は、爽やかな清しい人たちだった。彼らも、同じように、こんなときこんな奥山にやってくる年寄りは、爽やかな清しい人たちだったなどと言っているだろうか。おっと、少なくともYoumyさんはお年寄りではなかった。失礼失礼。
 渡辺伸栄watanobu
登り始めの林内。スゲの類は、シダ類同様、細かい種別が分からない。分からないが、この時期の花はトウウチソウに似ていて意外と目を惹いた。花は色香に惑わされず素直な心で見るべし。
一旦、人分山の鞍部を下ってから、改めて日本平山への尾根筋を登り出す。標高700mぐらいで本格的に残雪の山になった。ジグザクに、藪を避ける先行者のトレースを辿って樹間を縫うように進む。意外と時間を要した。後方に飯豊連峰が白嶺となって空に浮かんでいた。
大池は完全に雪の下。無雪期だと人が数人乗れるほどの浮島があるのだとか。無垢の雪面を走ってみた。子供の頃、こうやって裏の田んぼの雪原で鬼ごっこをした。山ではいつも遠慮なく童心に帰れる。
GPSで辿る夏道は尾根の下を巻くようについている。Unqさんが尾根に上がって様子を探ると、そちらの方が歩きやすいと言う。残雪期にはこういう利点がある。ここまでの登り道もずっとこうであれば時間を稼げたのだが、そうは問屋が卸さなかった。
後方に日本平山から続く日倉山、その先に横たわるのは名峰・菅名岳。右端が鳴沢峰、中央が菅名岳、左のなだらかな山が大倉山。コロナがなければ、この日は公民館登山で大勢あそこの峰を歩いていたはず、こんな絶好の日だったのに。その前に、18日は峠歩きでTamuちゃんのデビュー戦だったのに、それもコロナがふいにした。
登って来た長い道の、ずっと先に五頭山の連峰。その右に離れて真っ白なのは二王子岳。さらにその右は飯豊連峰。ここからだと二王子岳と飯豊連峰は連なって見える。それにしても日本平山の稜線の道は長い。
12時55分。標高1010m付近、1080mのあの山頂まであと直線距離で600mほど。ほとんど休憩なしでここまで6時間かかっている。ここからの下山に4時間かかるとして、山頂までの往復に最低1時間は必要。18時に登山口に戻るには全く休憩なしでの強行軍になる。下手をすると日が暮れる。ということで、今回は登頂を諦め、ここから引き返すことにした。
そうと決まれば、何はともあれ腹ごしらえ。せっかく担いできたノンアルでとりあえず乾杯。食糧はYoumyさん手作りのおにぎり弁当にサンドイッチ、Unqさんからはカップラーメンにお菓子を頂いて、結局自分が担いできたのはノンアル1本と水だけ。何ともさもしい登山びと。昔、新八犬伝にさもしい浪人・アボシサモジロウというのがいた。まるであれだ。
山頂をバックにすごすごと引き返す。Unqさんはこの時、♬両手を回して、帰ろ~♬と歌っていたらしい。三橋美智也の「星屑の町」、後日のブログで知った。ナニ、いつかまた来るさ。三角点マニアとしては山頂の一等三角点を見てみたいし、それに大池の浮島にも乗ってみたい。時間はかかったが、特に難しい山でないことは今回で分かったし。
それほど後ろ髪惹かれる思いでの撤退でなかったのは、多分、山頂がピラミダルでなかったせいだ。これが光兎山のように鋭角にとがった山頂で、高低差あと70mを登らずに引き返すのであれば、両手を回すどころか呪いの言葉の一つも吐いただろう。それに、もしここが常念乗越の登りで、あと600m進めば山小屋が待っているのであれば引き返すはずもない。泊登山よりも日帰り登山の方が難しい。何しろ下山の体力と時間を計算しなければならないのだから。我らがよくやる遠征連泊の二山登りが、縦走連泊の登山より難しいのはそのためだ。などなどいろいろ感慨も湧くのだが、何のことはない、今回の撤退に悲壮感はみじんも湧かなかったのは、眼前に横たわる飯豊連峰の眺望があまりにも素晴らしかったせいだ。
ここから眺める飯豊連峰は、まるで天空に浮かぶ真っ白な神の峰々。左端の二王子岳も連峰の一翼を担って見える。右端の巨塊が大日岳、飯豊の最高峰、だから巨魁、飯豊のドン。中央は北股岳と梅花皮小屋のある鞍部。我らが故郷の朳差岳はどこに隠れたか。
標高700mを切ればもう雪はない。土の道の歩きやすいこと。とっとと下ると一面のカタクリ。朝はまだ閉じていた花が夕日を浴びて一斉に開花していた。不思議なことにこの辺り一帯だけの群生。急ぐ足を暫し止めて花に見入る。うん、確かにスゲよりはいい。
人分山という珍妙な名の、ピークというよりは尾根から突き出した展望台。まさか、人さらい共がここで獲物の人を分け合ったというのではあるまいが。旧三川村の中心地がよく見えた。 
落日が対面の山の端にかかる直前の頃、登山口に下山。オオカメノキの花を見てヤレヤレの安堵。薄暮れるまであと30分の余裕で下山できた。登頂を諦めたのはやはり正解だった。何事も無理は禁物ということだ。
<コースとタイム>   P発7:08-9:15人分山分岐-11:43大池-12:55引き返し点13:44-14:44大池-16:13人分山-17:55P着
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