山の記 2020
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6月4日(木) あらたふと青葉若葉の日の光 (芭蕉) 
 光兎山 966.5m 新潟県関川村  地理院地図は→こちら
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 関川村の霊山・光兎山は、標高1000mに30mほど足りない低山。とは言え山頂に達するまでピークを4つ越え、5つ目でようやく山頂というアップダウンの激しい山。だから累積標高は1500mを超え、高山並みの登山となるハードな山。
 山中に入るとスラリと伸びたブナの木々が生えそろったなんとも気持ちの良い林の斜面を登る。季節はもう夏、朝の陽がブナの青葉から射し込んでくる。自然と芭蕉の句が浮かぶ。
 実は、数多い芭蕉の句に感銘を受けたことはほとんどない。どの人の解説を見ても17文字以外の出典(例えば旅日記など)から情報を得て解釈し感動している。それが気に食わない。俳句は純粋17文字だけで勝負すべきだと思い込んでいるから。そんな中で、表題に借りたこの句は気に入っている一つだ。
 山に入ってこの光景に出逢えば、だれにしろ神を感じるに違いない。神々しいとはまさにその感覚を言い表した日本語だ。これまで山中、山上で心底これは神の所為だとしか思えない光景に度々出逢ってきた。そしてそのことを時々「山の記(山歩紀行)」にも書いてきた。
 滴る緑と日の光に感じ入りながらブナ林を抜け、目に沁みる汗を拭いながらピークを3つ越えると、この日のお目当てヒメサユリの群生地がある。見事に咲いていた。明後日、村の公民館の行事でこの花を見るための登山がある。今日はそのための下見。主管する阿賀北山岳会の最強メンバー3名と最年長メンバー1名の4人。花の時期にドンピシャリと当たって、まずは一安心。その上、今日よりは少し気温も下がって晴天日予想。過去には、まったく蕾だけ、しかも雨、なんて年もあった。これとて神のなせる業、我らにはいかんともしがたくただ祈るしかない。今回は、僥倖に恵まれたようだ。
 みごとなヒメサユリを前にして、Unqさんが言う「なんという色だろう」。そのあと「人には出せない色だ」と言ったのか「自然に出るとは思えない」と言ったのか、どっちだったのかは判然としないが、感極まった声だった。その声に応えて「なぜこんなに不思議な色を出せるのか、それは神が造ったからだとH君は言う」と私。つい昨日H君からのメールで、自然界の色の素晴らしさと神の創造についてのwebのビデオを見るよう勧められたのだ。それを聞いてUnqさん曰く「納得するしかないな」。いつも鋭く突っ込んでくる彼にしては珍しい反応。山に入れば、だれにしろ神を感じるに違いないのだ。
 その神が中近東の神か、インドの神か、日本の神か、あるいはそれらは同一の別側面なのか。そして、我ら衆生を超越して存在するのか、それとも人間一人一人にまで余すところなく目をかけている存在なのか。いやもしかして大宇宙は偶然の連続に貫かれているだけで、我らが勝手にそれを神と感じているだけなのか。とりあえずはH君の勧めに従って創世記を読み進めることにしている。昼寝前のほんのひとときをその時間にあてて。
 下山したら下界はまだ猛暑。Unqさんの自宅にTamuちゃんからの差入が置いてあって、その冷たく冷やされたチーズケーキをこれまた冷たく冷やされた缶ビール(もちろんノンアルの)で喉に流しいれた。その美味いこと、疲れがすっかり吹き飛んだ。
 渡辺伸栄watanobu
光兎山のブナ林は、場所によって様々な様相を見せる。スラリとまっすぐに伸びた若人たちのような林があったり、複雑に曲がった枝を四方に伸ばした老木の巨木が並んでいたり。霧雨の日には神秘さを漂わせるが、陽が射し込む日には、木漏れ日の光線が青葉の緑を複雑にして、これまた神々しさをいや増してくる。
名水・光兎水。この山に登り始めた頃、ここの水場から登山道に戻るのは難行苦行だった。だから、水を汲みには行かないという登山びとは多い。いや、ほとんどだ。それだけに、ここの水は格別においしい。
この時期のこの山で、ヤマモミジの鮮やかなことに驚く。大概の山のこの花は、少し白っぽいというかかすれたような赤になっているものだが、ここのこの花は燃えるような真っ赤。花の先遠くに見えるのは飯豊連峰、一番手前は朳差岳。
雷峰の手前で一輪、ヒメサユリ、早速のお出迎え。その色といい形といい、登山びとをうならせる。絶妙の自然の造形。
雷峰を越えれば、稜線の道はヒメサユリ・ロード。まだ蕾が多い。咲く寸前の蕾も。明後日の本番、どうか咲いていておくれ。ヨ平戻しの頭を越えると、目指す山頂は目の前。だが、ここから一旦最低鞍部に下がり、そこからが胸突き八丁、急坂登り。
あまりにも陽射しが強すぎて空気も霞む夏模様。飯豊連峰は幻想のように見える。
山頂で何はともあれの乾杯。阿賀北山岳会最強メンバー3名+最年長メンバー1名、計4名。だからもちろんオートシャッターです。本番当日の無事を祈って。
山頂の宴会、仕出しは全てYoumyさん手作り、ご馳走様でーす。
下山。Unqさんのブログにもあったけど、山頂からの下山路のこの景色、ホントにいいですねえ。少し下るとダマカシがあって、そこから最低鞍部、そしてヨ平戻しの頭、そこから長ーい稜線の道が雷峰まで続く。天空の山歩道。そこに今は、ヒメサユリ。目の先に、女川の河岸段丘、荒川が作った関川村の盆地。貝附の狭戸。朴坂山塊と高坪山塊、新潟平野、日本海。ここで生まれ、ここで育って、ここで生きて、多分ここで逝く人たち。
ツクバネウツギ、北日本の日本海側にあるのは、ウゴツクバネウツギという種類らしい。違いがよく分からない。この花、我が庭のスイカズラと同じ科だという。庭のは蔓で、こちらは木。花もそれほど似てはいない。どこがどう同じなのか。
ヨ平戻しの頭から少し雷峰に寄ったあたりにあるのがこの姥石。かつて女人禁制の時代、禁を破ってここに登った女性が神仏の怒りに触れて岩にされたのだとか。女人禁制は昭和24年に解禁になったと、その経緯が平田大六氏から本番当日に頂いた冊子に書いてあった。そういった話を聞くと、私などはつい、この姥石の人は「オレは何だったんだ⁉」と嘆いているに違いないなどと思ってしまう。
<コースとタイム> 登山口発7:25~8:11分岐8:22~8:51虚空蔵峰~9:20水場9:28~10:14雷峰10:28~11:34山頂12:23~13:18雷峰13:24~15:30登山口着
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