山の記 2020
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10月4日(日)  奥と羽を分けて隔てる 雁戸山
雁戸山1484m 南雁戸山1486m 山形市・宮城県川崎町 地理院地図は→こちら
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ここは奥羽山脈、雁戸山。今立っているのは双耳峰ピークの最高点、南雁戸山1486mの頂。手前側が羽州(出羽)で、後方が奥州(陸奥)。日本の背骨をなす脊梁山脈の真上。日本海と太平洋に雨水を分ける大分水嶺が、画面の右へ左へ、南は栃木那須連山、北は青森陸奥湾へ、延々と連なる。
いくらドローンの高度を上げたところで、500㎞に及ぶこの大山脈の全容をとらえることは不可能だが、せめて、山頂から10m弱の高度を上げてカメラを360度ぐるりと回転させ、見える限りの山々を撮る。
山頂の南方には、蔵王の連山がデンと横たわり、地蔵、熊野、刈田、屏風、不忘と、なじみの山々が並ぶ。北方は、すぐ隣に100mの鞍部を挟んで双耳峰の一方の雁戸山。その先に山形神室と仙台神室、さらにその先に面白山。ここまではなじみのオレの山。特徴ある形の大東岳、ずっと先に霞むのは多分船形山。未踏の山で、まだヒトの山。峰々がまるで襞のようになって幾重にも連なる。見えはしないが、ずっとその先に先月登った栗駒があって、もっと先に焼石、秋田駒、そして八幡平・・・と、奥羽山脈上のなじみの山を想う。
周りは今季一番の紅葉。どこの山でも、この時季、登りの時より下りの時が鮮やかさを一段と増す。陽光の加減か、見る角度の違いか、それとも短時間で紅葉が進むのか、理由はよくわからないが、この方が疲れた体にはありがたい。
 渡辺伸栄watanobu
有耶無耶の関に興味があったので、そこのルートから入るつもりで鉄塔下の登山口へ来た。思いの外、草が露で濡れていて、鉄塔下でスパッツを着けたりしていたら、突然、藪の中から登山人が現れて曰く。「この先、藪が濃くてびしょ濡れになったから戻ってきた」と。見れば、カッパズボンはびしょびしょ。Unqさん「駐車場の先の車道の脇に、もう一つ登山口がありますから、僕らはそっちから入ります」と言い置いて、もう一方の登山口へ向かった。鉄塔の下で濡れたズボンを脱いだりしていた彼の御仁、神室山へ向かったやらどうしたやらと気にしつつ。
後刻、関沢ルートの分岐で一休み中、後ろからやってきたのはこの御仁。さっきはどうもなどと言いながら、休みもせずに追い抜いて行った。さて、この方とは御縁があったらしく、南雁戸山山頂でまた会えて、ちょっと話をして、カメラのシャッターまで押し合いっこ。福島から来たと言う。我らは新潟と言うと、新潟にはいい山がたくさんあるのに・・・と宣う。このセリフ、過去にも何回か山で聞いた。どうも、他県の人には我が県が垂涎の山の県らしい。我らが長野県を思うように、新潟県を見ているのだろうかと思うと、少々誇らしげな気分にはなる。でも、長野県にはかなうまい。
Youmyさん、山頂から御仁が消えた後に小さい声で「新潟の山、登り尽くしたんです
ウフフフ」だって。そう言ってみたかったんだろうなー。今度、そう言ってみようか。
ルートはずっと樹林の中で眺望はなし。道は悪路、難路。だから、只管下を向いて黙々と登る。2時間そうやって、雁戸山山頂への急斜面に登りついた10:24、ようやく眺望がきいてこの光景。三角にとんがった千歳山の向こうに山形市街。広い緑地は霞城公園だろう。すっかり変わってしまったが、50年たっても懐かしい町。クリスチャンになったH君があの辺りに居る。
振り仰げば、あれが雁戸山山頂。手前のピークの先に蟻の戸渡りがあるのだという。蟻の戸にもいろいろあるが、ここはどんな蟻の戸やら。ま、戸隠の蟻の戸ほどの蟻の戸は、そんじょそこいらにあるもんじゃない。
北を向けば、襞のように重なる奥羽山脈の山々。左手前から山形神室、その右に仙台神室、その右の台形は大東岳、その左奥は面白山で、右のずっと奥に高いのが多分、船形山。
雁戸山山頂。今回ここは通過点。三角点の上にカメラを置いてオートシャッターで撮影し、すぐに次を目指した。ところで、ここの山頂標高、古い登山地図には1484.6となっている。小数第1位まで表示されているのは三角点の標高。ところが、最新の地理院地図をよく見たら、小数無しの1484となっていて、三角点ではなく単なる標高点扱い。ということは、三角点は廃止されたということ。とすれば、カメラを上げたあの石柱は何だったのだろう。廃止となった三角点か? 後の祭りだが、よく見ておけばよかったと悔やまれる。次にまた行くことがあるだろうか。
山頂を越えると、この赤い実の木が目についた。長く細く鋭い棘が各葉毎の付け根についている。下山後調べたらヒロハヘビノボラズ。珍しい木ではないようだが、これまで、気に留めたことがない。下山時に通ったカケスガ峰の上はびっしりとこの木に覆われていた。特徴ある棘の木だから、以後、気に留めていれば見つかるかもしれない。それにしても、オレンジのシャツにオレンジのマスクにオレンジの手袋、Youmyさんのコーディネートに、ヘビノボラズの実の色も合わせたよう。
雁戸山の山頂を越えて、一旦大鞍部に降りて登り返す。この落差100ほどの大鞍部を渡りの雁が通るから雁戸山の名がついたのだという。戸は切戸の戸、鞍部のこと。何もこんな狭い切戸を超えなくても、雁戸・南雁戸の両側、つまり笹谷峠側も八方平側も広い台地状になっていて、そこを越えた方がよいだろうにと思ったのだが、現地をよく見たら、案外合理性のある話かと思えてきた。この大鞍部の両側は、どちらも谷が刻まれた地形。ということは、谷伝いに上昇気流が発生する。だからかと、先の話に納得。
ミネウスユキソウがまだ残っていた。老残と雖も気品あり。かくありたいと思うがなかなか。
ここが本日目的地の南雁戸山。朝の鉄塔下で会った登山人がここで休んでいて、シャッターの相互交換。その後は我ら3人だけの山頂。ゆったりと1時間超過ごした。悠然たる秋の山頂時間。
着替えたのではなくて、温かい山頂で会のユニフォームを脱いだだけ。雁戸山をバックに。間の切戸は深く大きく、こっちとあっちが双耳峰の一つ山とはどうしても思えない。雁戸山に北雁戸山という別名がついているのは、だからなのだ。言ってみれば、全体が雁戸山で、こっちは南雁戸山、あっちは北雁戸山。これなら了解だ。
山頂からのドローン撮影。南方眼前の蔵王連山。熊野岳の左に刈田岳の神社が見える。お釜の向こうに南蔵王の屏風岳や不忘山。左下に八方平の避難小屋。南雁戸山からあの小屋を通って熊野岳までつながる縦走路がある。ここから3時間半のコース。笹谷峠へ戻るのとそう違わない。下山途中に会った登山人は、峩々温泉から登って八方平小屋に泊まり、今日、雁戸山にピストンして帰るのだと言う。いいなあ。
ドローンから。昼頃になったら、山の色が一段と鮮やかになり出した。雲が薄れて陽射しが出たり空が青くなったことと関係あるのだろうか。深く大きいと思った切戸も山全体から見ればちょっとした切れ込み。
たっぷり休んで下山の時刻。両手を回して帰ろー。紅葉の切戸へ下る。
雁戸山山頂を越えた、蟻の戸渡り。来るときは、ここか?とよくわからなかったが、やっぱりそれらしい箇所はここしかなかった。ここが蟻の戸渡りなら、どこもかしこも山中蟻の戸になるというもの。ま、よくよく蟻の戸の意味を考えてみれば、山頂とその先の小ピークを繋ぐ細尾根のこの地形、本来の意味と言えなくもないか。
朝回れなかったので、下山で有耶無耶関跡に回った。興味があったのは、有耶無耶の名称。地形と関係あるかと思って来たが、そうではなかった。鳥の鳴き声とのこと。ただの鳥でなく、仏が姿を変えた神鳥。この山に住む鬼が出たら「有耶」、いなければ「無耶」と鳴いて、旅人に安全を知らせたのだという。有耶無耶関跡は鳥海山の麓にもあって、芭蕉もそこを通っている。どちらが本物の関跡かは、うやむやのままらしい。
下山時には藪はすっかり乾いて、快適に鉄塔下に出、笹谷峠に着いた。7年前、仙台神室に登りに一人でここに来た時、笹谷峠にはヤマグミがびっしりで一面真っ赤になるほどだった。今は未だ色づかない実が多かったが、この木だけは早々と赤く実って、秋の風情一段。(ヤマグミは通称で、正式名はアキグミのようです。)
<コースとタイム>  車道脇登山道入口発8:00-8:06山工高小屋8:12-8:48関沢ルート分岐8:56-10:08滑川ルート分岐10:18-10:46雁戸山山頂10:51-11:37南雁戸山山頂12:46-13:25雁戸山山頂-14:17カケスガ峰分岐-14:23カケスガ峰14:33-15:38有耶無耶関跡15:43-16:04笹谷峠駐車場着
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