綿野舞(watanobu)猫額苑四季(ねこのひたいのにわのしき)2019
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4月2日 時ならぬ雪 主を待つ梅 襲う
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母は歳相応に偏屈の気があって、もう十年以上も私が世話をして大きくしてきたというのに、「あの梅はオレが植えたオレの梅だ」と時々思い出したように言い張り、妹に実をもいでいけなどとこれ見よがしに言う。だから、それを聞くたびに「こみっともない」と年甲斐もなくむかっ腹を立て、思いっきりハサミを入れ刈り込んでいたものだから、これまで庭の梅、どこかひねたような遠慮気味な花の付け方をしていた。それがどうしたわけか、この春は盛大に花をつけた。夏と秋の剪定を控えめにしたことや施肥を多めにしたことなど、思い当たる要因はある。開花前の2月半ばに、主が突然脳梗塞で倒れ救急車で運ばれたことと因果関係は絶対にない。退院したら満開の花を見せて、世話の効果を今年こそは言って聞かせようなどと思っていたが、当分、退院できそうもない。そこへもってきて、この雪。容赦なくこれでもかこれでもかと覆い被さる。とはいえ、春の淡雪。なにくそなのか、なんのこれしきなのか、梅の花は何食わぬ顔。病室のベッドに横たわる母も物言えぬまま、泰然自若の梅の花の態。何しろ97歳超高齢、医師も家族も多分本人も天命に従うのみ。が、望むらくはせめて百歳。病院スタッフの皆さんの手厚い看護のお陰で一日一日命を繋いでいる。
渡辺伸栄watanobu
入院当初の医師の診たては、超高齢のこともあって五分と五分とのことだったが、何しろ100年近く生きてきた母の生命力はしんならづよいものがある。私ら家族としては生還の五分に賭け、いつ退院してもいいように態勢を整えて待つことにした。部屋を少し広げ雑多な物品を整理して、冷暖房完備。床もバリアフリーにして廊下や玄関に手すりやスロープを備えた。内部は工事完了。この後、スロープをまっすぐ玄関外に延ばして道路までつなげる予定。手づくりの門と塀が邪魔になるので昨日から取り壊しにかかったら、この雪。作業を中断して今日は母の部屋の整理。と、このように言えば実に手際よく進めているように聞こえるかもしれないが、実は、改造工事を計画して大工さんにお願いしたのは母が倒れる少し前のこと。だいぶ足腰が弱って来ていたので予め介護態勢を整えておこうと決めていたら、ちょうどそのタイミングで発病入院となってしまった。留守中に工事を進められたのは良しとして、帰りが想定外に延びてしまっていて、今は転院の話も出ている。梅見は諦めるとして、せめて新装なったオレが家には戻ってもらいたいのだが、さていつになるやら。これまた天のみぞ知るか、病院通いが続く。
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