山の記 2020
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11月22日(日) 落ち葉漕ぐ 5キロの峰の往き復り
三峰山 1122.5m 群馬県みなかみ町 
~山の記 目次へ~
上州の三峰(みつみね)山は、台形状の長い稜線を持つ山で、南端の登山口から北端の山頂まで片道5㎞の登山道を往復する。楢が主体で時々松や栗の木が混じる林の中の平坦な道。今はすっかり落葉して林内は明るく、地面には厚く落ち葉が積もっている。旧街道の並木道かと見まがうほどの平坦な道を歩いていると、標高1000m前後の山の上だということを忘れてしまう。が、道がカーブして林の端に寄ったときなど、ふと道脇の崖を覗くと、下が見えないほどに切れ落ちた崖の上。ここがテーブルマウンテンの断崖上だと気づく。頭上見上げれば、栗の木の上に熊棚。どうやらここは、上州熊の餌場でもあるらしい。登り口で会った人が、猟期が始まったと言っていた。歩きながらKeynさんが突然、奇声を張り上げたり歌を歌ったり。あれは熊よけのつもりだったのか、それとも鉄砲撃ちへのアピールだったのか。とにかく5キロの山道、ただ黙々というわけにはいかない。話題をいっぱい持っている人は延々としゃべり続け、それを持たない小生などは、落ち葉を蹴散らしたりこざいたり。落ち葉はカサコソ、空は真っ青、陽射しは明るく、関東の冬の山はいつ来ても、いい。
 渡辺伸栄watanobu
登山口の駐車場に着いて空を見ると、パラグライダー。真っ青な空にふんわりと浮かんで、何とも気持ちよさそう。いい一日の始まり。
登山開始してすぐに天狗岩への分岐がある。ちょっと寄って見てみようかと、主ルートを外れて枝道へ入る。そこは急斜面のトラバース道。落ち葉が厚く積もっていて斜面を細く削った道が見えない。その上、滑る。足で探りながら恐る恐る歩く。天狗岩は急斜面に突き出した大岩の塊で、窪みの岩窟に祠があった。他の3人は、来た道を引き返したが、私は、まっすぐ直登すれば本ルートに合流できるので、あのトラバース道を戻るよりはと、そちらの方を選んだ。登り上がった所に、モノレールの発着所があって、ちょうど、車で運びあげた荷物をそこからモノレールに移し替えているところだった。何だ?と思ったら、パラグライダーの人たち。モノレールは複線になっていて、1本は荷物、もう1本は人間を運ぶ。パラシュートは15㎏もあるのだそうで、運営会社が麓の基地から上のテイクオフ場まで車とモノレールで運んでくれる仕組み。これはかなり費用がかかるだろうなあと、管理人さんらしい人に訊ねてみたが、そこまでは把握していないらしく無反応だった。さっき見たあの気持ちよさそうなフライト、ひと飛びいくらなんだろうなんてつい考えてしまう、貧乏性。
本ルートは整備された道で、まるで村上のお城山。斜面の岩は人工で積み重ねたようにも見えて、あたかもお城山の石垣。天狗岩の斜面で余計な緊張を強いられただけに、ホッとして、のんびりと関東の秋の山の散策。
標高900mにある河内神社から、目の前に子持山。あそこに登ったのは2016年2月。獅子岩の岩塔に立って足がすくんだ印象深い山(当時の「山歩紀行」は⇒こちら) 登った山はオレの山、懐かしく親しさ一入。
河内神社は、岩船郡では雲ノ上公伝説に因む神社といわれるが、ここの河内神社はその伝説とは無関係、正真正銘、河内国の神・河内大明神を祀った神社とのこと。ここでも、パラグライダーがふわりふわりと気持ち良さそうに浮いていた。
台形の山上は、ゆるい起伏の平坦な道が続く。まるで、松並木の旧街道、大名行列でも通りそうな風情で、標高1000m前後の高所とは思えない。が、あくまでもここは細くて長いテーブルの上で、左右は断崖絶壁。特に右の林の中は、すぐに崖。
ふと頭上を見上げれば、おっ、あれは!クマ棚か? いや、まさか、関東の雑木林にそれはないでしょ!などと姦しくしゃべりながら、またふと足下を見ると、厚い落ち葉に交じってそこかしこにクリのイガ。あの木は、クリの木、ならば、あれはクマ棚。歩を進めると、次々と現れる。地面には折って落とした太枝も。ここはどうやらクマの餌場。見通しの利くこの時期でよかった~。
長い道を歩いて山頂に近づくと、それまで平坦だった山上が急に変貌、起伏が激しくなって小さなピークが次々と現れる。これが山頂かと思えば、その先に道があり、今度こそ山頂かと思えば、道はまだ先へと、何度も何度も騙された。
やっと着いた山頂。いつも走っているドームから大島までが5キロ。そのたった5キロでしかないのにヤレヤレ感がつよい。平坦な長い道の果てに騙され騙されのアップダウン、そのせいだろう。やれやれどっこいしょと山頂に腰を据えて、ゆっくり長く昼休み。目の前には谷川岳の谷川連峰。あそこにも何度か登った。プチ縦走したのは2018年9月(「山歩紀行」は ⇒こちら ) 馬蹄形縦走の前後の下見は終わったが、まだ完全踏破は果たしてない。
大展望の日なのだが、三峰山の山頂は木立が濃くて、360度パノラマというわけにはいかない。頭上も木々の枝で覆われていて、せっかく担いできたドローンも飛ばせない。木々を透かして武尊山が見えた。あの山に登ったのは2013年9月(「山歩紀行」は ⇒こちら )武尊山とこちらの間に迦葉山があるはずなのだが、木々に隠れてよく見えない。胎内巡りで大冒険の懐かしい山。(迦葉山の「山歩紀行」は ⇒こちら )
下山は、途中まで同じ道を引き返す。来るときに気づいたのだが、平らな山上に盛り上げた土手のような道が続いていた。まるで、山城の土塁。帰りによくよく見れば、この盛り上がった道の線を境に、左右別の谷となっていて、雨が降ればここは分水嶺。小規模ながら、立派な脊梁。その上を人が度々歩いて道ができた。
帰りは三峰沼へ。何のことはない、農業用水の為の溜池。と、記念撮影しながら、ふと水面を見てびっくり。ここは、鏡池。この逆さ景色はすごい!下の画像、左右、どちらが正でどちらが逆か、分かるかな?
森敦が書いていた。我らが見ている世界は、実像のようであって実像でない、ちょうど天体望遠鏡で見るように、網膜に写った虚像を脳が戻して実像だと思って見ているのだと。確かそんな内容だった。ここの鏡池を見て、そんなことを思い出した。あれは初等理科の話でなくて、高等な文学論だった。難しくて途中でほおり出したのだったが、Unqさんなら、分かるかもしれない。今度聞いてみようかな。いや、多分無視されるだけだろうな。
年を取って好奇心が薄れるのはまずい。だから、最近は何でも見てやろうと、野次馬根性に徹することにしていて、この日も下山コースを少し外れてテイクオフ場を見学して回り道で下ることを後続の3人に告げて、先に急いだら、まっすぐ帰るのかと思っていた3人も後からついてきていた。ライダーは子どもかなと思ったらどうも小柄な若い女性らしい。本当のところはヘルメットとスーツで身を固めているので分からない。と、テイクオフの指示が出て、地面をけって前かがみに走り出した。その瞬間。相当の風の抵抗がかかるから、脚力・体力必要なんだろうなあ。と、思っている間に、左の斜面を駆け下っていく。そのまま下の草むらへ下りていくのかと一瞬思ったその時、ふわりと浮いて、あとは楽ちん楽ちんというふうに風に乗ってふわふわと前の方へ落ちていく。
ライダーは2人いて、1人目が飛んで行ったからもう帰ろうかとしたら、Youmyさん、もう1人を見ていこうと動かない。下の着陸基地から無線でゴーサインが出るのを待っているらしく、次のライダーはなかなか飛び出さない。ようやく動きが見えたと思ったら、誘導員か指導員の人がいて、いろいろ指示やらチェックやら。さすがに命がかかっているから入念。結構な時間、だれも、もう帰ろうと言わないでじっと待っている。ようやく2人目が飛び立って、今日はこれで終わりかななどとつぶやきながら下山路へ向かう道々、やってみたいよねえと誘いかけたのに、だーれも反応しない。あれほど熱心に見続けていたYoumyさんだからもしかしたらと思って、気持ちいいだろうねえなどと探りを入れても、いや、私はいいと、にべもない。身の程知らずは、どうやら自分だけ。前方の子持山の右に見えるのは、榛名山。あそこに登ったのは、2014年3月(「山歩紀行」は⇒こちら ) 晩秋になるとはよく来る群馬の山、去年は来てないから久しぶり感で、懐かしい山たちへご挨拶。
<コースとタイム> P発9:33-9:54天狗岩-10:19河内神社-12:19山頂13:33-14:51三峰沼-15:18パラグライダーテイクオフ場-15:43P着
ここに上げきれなかった画像はYouTubeにあります。⇒こちら 
 Unqさんのこの日のブログは ⇒こちら 
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